『ファミマ増量に歓喜!大食い男子のフライング事件』(架空で空想のショートストーリー)※画像はすべてAIによるイメージです
1. うだるような夏と、大学生たちの切実な胃袋事情
令和8年(2026年)、8月3日。日本の夏は、今年も容赦のない猛威を振るっていた。連日のように「危険な暑さ」という言葉がニュースのトップを飾り、コンクリートジャングルと化した都市部は、照り返される太陽の熱とアスファルトから立ち昇る陽炎によって、まるで巨大なオーブンの底にいるかのような息苦しさに包まれていた。
空はどこまでも青く澄み渡っているが、その美しさとは裏腹に、外を数分歩くだけで肌を刺すような紫外線と、滝のように吹き出す汗が人々の体力を奪っていく。
そんな過酷な外界から隔絶されたように、某大学の古びた学生会館の一室に、重苦しい空気が漂っていた。扉に掛けられた木製のプレートには「大食いサークル・ブラックホール」という、いささか物騒で野心的な名前がマジックで乱雑に書かれている。

しかし、その名前に反して、室内にいる部員たちの様子は、ブラックホールのように何でも飲み込むようなエネルギーとは程遠く、まるで干上がった池の底でパクパクと口を開ける鯉のように生気がなかった。
部屋の隅に設置された、いつから使われているのかわからないほど黄ばんだ壁掛けのエアコンは、「ゴオオオ」と苦しげなモーター音を立ててはいるものの、吹き出してくる風は生温かく、全くと言っていいほど部屋を冷やしていなかった。
「……腹減った……」
部屋の中央にある長机に突っ伏したまま、呻くような声を漏らしたのは、このサークルの主力メンバーであり、本日の物語の主人公であるSENAだった。長身で、本来ならスポーツマンのような引き締まった体格をしているはずの彼だが、連日の猛暑と、何よりも「慢性的なカロリー不足」によって、すっかり萎縮してしまっていた。
SENAの言葉に、周囲で同じようにだらけていた数人の部員たちも、力なく同意の溜息をつく。彼らは皆、食べることが何よりも好きで、底なしの胃袋を持つ猛者たちだ。かつては、近所のデカ盛り食堂に挑んでは勝利の雄叫びを上げ、学食の特盛りカレーを水のように飲み干す日々を送っていた。しかし、現在の彼らを取り巻く環境は、かつてないほどに厳しいものとなっていた。
その最大の原因は、数年前から世界的な規模で進行し、日本社会にも深く根を下ろしてしまった「物価高騰」である。
原材料費の高騰、物流コストの上昇、そして記録的な円安。様々な要因が複雑に絡み合い、食品の価格は毎月のように値上げのニュースとともに更新されていった。大学生にとって最も身近なインフラであるスーパーやコンビニエンスストアの棚からも、かつてのような「手軽で安価に腹を満たせる」商品が次々と姿を消していった。
値上げだけではない。「シュリンクフレーション」と呼ばれる現象も、彼ら大食い男子にとっては死活問題だった。価格は据え置かれているものの、パッケージを開けてみると中身が明らかに小さくなっていたり、枚数が減っていたりするアレである。「実質値上げ」という言葉で表現されるこの現象は、視覚的な喪失感も相まって、腹ペコの若者たちに深い絶望を与えていた。
「この前なんてさ……」SENAは机に頬を押し当てたまま、恨めしそうに呟いた。
「スーパーでいつも買ってる5個入りのクリームパンが、同じ値段で4個入りになってたんだよ。俺の朝飯の黄金比が崩壊した瞬間だったね。5個だからこそ、脳も胃袋も『満足した』って信号を出すのに、4個じゃただの『おやつ』じゃん。空腹を誤魔化すどころか、逆に胃酸が分泌されて腹が減るっていう地獄だよ」
「わかる……」別の部員が力なく頷く。
「俺も昨日、久しぶりにカップ麺の特大サイズを買おうとしたら、値段見て手が止まったよ。昔は小銭で買えたのに、今じゃちょっとした贅沢品だもんな。アルバイトの時給は少し上がったけど、それ以上に食費が飛んでいくから、結局マイナスなんだよな……」
彼らの会話には、現代の若者たちが抱えるリアルな経済的苦境が滲み出ていた。学費を払い、家賃を払い、残ったわずかなお金でやり繰りする学生生活。そこに容赦なく襲いかかる物価高の波は、彼らから「お腹いっぱい食べる幸せ」という、ささやかで、しかし最も根源的な喜びを奪いつつあったのだ。
「あーあ、どこかの石油王か、心優しい大企業が、俺たちみたいな腹ペコ難民を救済してくれないかなぁ……。『お値段そのままで、量だけ倍増!』みたいな、夢のような魔法をかけてくれないかなぁ……」
SENAは半ば本気で、半ば冗談で、そんな叶わぬ願いを口にしながら、気晴らしに手元のスマートフォンを操作し始めた。SNSのタイムラインを無意識にスクロールし、流れてくる情報にぼんやりと目を向ける。そこには、相変わらず暗いニュースや、誰かの不満、どこかの遠い国の争い事など、心が重くなるような情報ばかりが溢れていた。
しかし、その時だった。
SENAの親指の動きが、ピタリと止まった。
彼の視線は、スマートフォンの画面の中央に表示された、ある一つのポスト(投稿)に釘付けになっていた。青と緑、そして白のおなじみのカラーリングが施されたアイコン。それは、彼らの生活に欠かせない身近な存在であり、いつもお世話になっているコンビニエンスストア、「ファミリーマート」の公式X(旧Twitter)アカウント(@famima_now)からの発信だった。

画面に踊る、信じられないような文字列。SENAは自分の目を疑い、何度も何度も瞬きをした。そして、乾いた喉をゴクリと鳴らし、画面に顔を近づけて、その文字を声に出して読み上げた。
「……お値段、そのまま……?」
部室の空気が、ほんのわずかに動いた。
「……おかわり……45%……増量作戦……!?」
次の瞬間、SENAはバネ仕掛けのおもちゃのように、パイプ椅子から勢いよく立ち上がった。「ガタンッ!」と椅子が後ろに倒れる大きな音が部室に響き渡る。
「おい、みんな! 起きろ!! 事件だ!! 大事件が起きたぞ!!!」
SENAの普段からは想像もつかないほどの野太く、そして歓喜に満ちた絶叫が、真夏の生温かい部室の空気を一気に切り裂いたのである。
2. 衝撃の告知!ファミマ公式Xからの福音と「いちばんチャレンジ」
「なんだよ、うるさいな……急に大声出すなよ……」
「どうせまた、どこかのスーパーのタイムセールで、もやしが10円安くなったとか、そんなオチだろ……」
突然の大音量に、微睡んでいた部員たちは不満げに顔をしかめ、目をこすりながら体を起こした。しかし、SENAの興奮はそんな冷めた反応など全く気にかけていなかった。彼はスマートフォンの画面を皆に向け、まるで世紀の大発見をしたかのような、あるいは天からの啓示を受けた伝道師のような、狂気すら帯びた輝く瞳で語り始めた。
「もやしの話なんかじゃない! もっとデカい、もっと偉大で、俺たちの胃袋を根本から救済する神の御業だ! 見ろ、これを見ろ! ファミリーマート公式Xの最新ポストだ!」
SENAが突き出した画面を、部員たちが胡乱な目で覗き込む。そこには、ファミリーマートのイメージカラーを背景に、極太のフォントで力強くデザインされたキャンペーンバナーが表示されていた。
【人気商品を「お値段そのまま」おかわり45%増量作戦】

「お、おい……これって……」
部員の一人の声が震えた。彼らもまた、その意味を即座に理解したのだ。「45%増量」。それは、ただの数字ではない。例えば100グラムの商品が145グラムになるということだ。元のサイズの約1.5倍に迫るという、常軌を逸したボリュームアップである。
「そうだ……あの伝説のキャンペーンが、パワーアップして帰ってきたんだ!」
SENAは、演説台に立つ政治家のように胸を張り、熱っぽく語り続けた。
「みんな覚えているだろう? ファミマが2021年の創立40周年の時にやった『40%増量作戦』を! あの時も、値段はそのままでファミチキや弁当が巨大化して、日本中の腹ペコたちを狂喜乱舞させた。あれはまさに、コンビニ界の革命だった。その後も毎年夏に開催されて、俺たちの夏の風物詩になっていたよな」
部員たちは無言で頷く。あのキャンペーンの期間中、彼らは毎日ファミマに通い詰め、カロリーの暴力に酔いしれたものだ。
「だがな……!」SENAはさらに声を張り上げた。
「今回はただの40%じゃない。なんと『45%』だ! しかも、よく読んでみろ。今年はなんと『年2回目の開催』で、『おかわり45%増量作戦』だと銘打たれているんだ!」
「年2回!? しかも45%!? ファミマ、頭おかしくなったのか!?(褒め言葉)」
部室の温度が一気に数度上がったような熱気が渦巻き始めた。SENAは素早くリンクをタップし、ファミリーマートの公式ニュースリリースのページを開いた。そこには、今回のキャンペーンの背景となる、企業としての熱い想いが綴られていた。
「ちょっと待って、今背景を説明するから聞いてくれ。……ええと、『ファミリーマートは、2026年9月に創立45周年を迎えます』だってさ。なるほど、45周年だから45%増量ってわけか。粋なことするじゃねえか」
SENAは画面をスクロールしながら、読み上げを続ける。
「『時代の変化に合わせ、コンビニの枠を超えてお客さまに「いちばん」と選ばれる存在であり続けるため、私たちは「あなたのいちばんをたくさん作る『いちばんチャレンジ』」を新スローガンに掲げました。』……だってさ」
「いちばんチャレンジ……」部員の一人がその言葉を反芻する。
「そうだよ。この物価高でみんなが苦しんでいる時に、『おいしい』とか『ちょっとおトク』とか『わくわく楽しい』っていう価値を提供するために、ファミリーマート史上最大の挑戦をしてくれているんだよ。わかるか? これはただの安売りじゃない。企業が、俺たち消費者を笑顔にするために、本気で身銭を切って挑んできた『挑戦状』なんだよ!」
SENAの言葉には、不思議な説得力があった。普段は食べることしか考えていない彼だが、この時ばかりは、社会の荒波に立ち向かう企業の姿勢に深い感銘を受けていた。
「俺たちは、この挑戦に応えなければならない。この『おかわり45%増量作戦』の対象商品を、一つ残らず俺たちの胃袋に収めることこそが、ファミマの『いちばんチャレンジ』に対する、消費者としての最大の礼儀であり、恩返しなんだ!」
「おおおおおおっ!!」
部室に、地鳴りのような歓声が響き渡った。先ほどまでの無気力な姿はどこへやら、大食いサークルの猛者たちの目には、野生の獣が獲物を見つけた時のような、ギラギラとした闘志が宿っていた。エアコンの効かない蒸し暑い部室が、今や熱狂のるつぼと化していたのである。
3. 圧倒的ラインナップ!対象商品と驚愕の価格設定に歓喜する若者たち
熱狂が冷めやらぬ中、SENAは再びスマートフォンに視線を落とし、キャンペーン特設ページの詳細を食い入るように見つめた。
「よし、みんな落ち着け。まずは敵の……いや、神のラインナップを確認するぞ。今回は初登場の7種類を含む全13種類が、週替わりで発売されるらしい。まずは第1週、これを見ろ!」
SENAは、画面に表示された商品の数々を、まるで宝物の目録でも読み上げるかのように、一つ一つ丁寧に、そして熱を込めて解説し始めた。
「第一の刺客! そして大本命!『増量ファミチキ』! お値段そのまま、230円(税込248円)だ!」

「出たああああ! ファミチキ!!」
部員たちがどよめく。ファミチキといえば、ファミリーマートの代名詞とも言える看板ホットスナックだ。サクサクとした衣の食感、一口噛めば溢れ出すジューシーな鶏肉の旨み。SENAにとって、それはもはや血液の一部と言っても過言ではないほど愛してやまない食べ物だった。
「規格重量で45%増量だぞ! 想像してみろ。あのただでさえ完璧なフォルムのファミチキが、約1.5倍の巨大な肉塊となって俺たちの前に現れるんだ。バンズに挟んだら絶対にはみ出すサイズだ。それがたったの248円! 狂気の沙汰だ!」
SENAの額には汗が浮かんでいた。想像するだけで口の中に唾液が溢れてくる。
「次!『たっぷりハムサンド』、332円(税込358円)! これも45%増量! コンビニのサンドイッチって、最近はペラペラのハムが申し訳程度に入ってるだけ……なんて嘆くこともあったが、これは違う! たっぷりのハムにペッパーチーズソースと野菜! それが1.5倍だぞ! パンパンに膨れ上がったサンドイッチを想像しろ!」

「最高だ……朝飯はそれに決定だな……」
「まだまだあるぞ!『たんぱく質が摂れる!豚しゃぶのパスタサラダ』、369円(税込398円)! 筋トレ民も歓喜のパスタサラダが45%増量だ。ポン酢とごまドレッシングの相性が抜群のアレが、巨大なボウルサイズで食えるってことだ。これ一つで立派な一食になるぞ!」

SENAの解説は止まらない。
「さらに地味に嬉しいのがこれだ!『千切りキャベツ』118円(税込127円)! 旬の嬬恋高原キャベツを使用しているらしいが、これが45%増量! 自炊する学生にとって、サラダのボリュームが増えるのは神の恵みだ。豚肉でも炒めてこの上に乗せれば、立派なデカ盛り定食の完成だ!」

「おおーっ、千切りキャベツの増量は盲点だった! ファミマ、わかってるな!」
「そしてスイーツ勢も黙っちゃいない!『ファミマ・ザ・クレープ 生チョコ』、250円(税込270円)! 絶妙なもちもち食感の生地に、くちどけなめらかな生チョコと濃厚ホイップがぎっしり。それが45%も増量されて、太い丸太みたいになって登場するんだぞ! 甘党の俺の胃袋が悲鳴を上げそうだ(歓喜の悲鳴)!」

SENAは息継ぎもそこそこに、さらに先の情報を読み上げる。
「さらに『甘栗むいちゃいました』320円(税込345円)、『コロロ 清水白桃』148円(税込159円)などの定番お菓子も45%増量だ! これが第1週のラインナップ。どうだ、隙がないだろう?」

「完璧すぎる……ファミマ、俺たちを太らせる気満々じゃねえか……」
「だが、これで終わりじゃない! 予告として第2週のラインナップも公開されている! 8月11日からは……なんと『3色そぼろ&チキン南蛮弁当』630円(税込680円)のチキン南蛮が45%増量! さらに『大盛ミートソース』554円(税込598円)、『だし香る!大盛とろーりたこ焼き』499円(税込538円)、『赤城 たべる牧場ミルク』230円(税込248円)、『ポテトチップス わさビーフ』148円(税込159円)、そして極めつけは『Afternoon Tea監修 白桃香るルイボスティー』が600mlから950mlへ45%増量だ!」
「950mlのルイボスティー!? もうそれ、ほぼ1リットルじゃねえか! 水分補給も完璧だ!」
SENAは、まるで自軍の圧倒的な戦力を誇示する将軍のように、誇らしげに胸を張った。
「さらにだ、みんな。キャンペーンは商品だけじゃない。期間中、ファミペイ払いで100円(税込)以上買い物をすると、抽選で45,000名にファミマポイントがなんと45%還元されるらしい! しかも、公式Xをフォローして『#45パー増量クレープ出現』をつけてリプライすれば、総計3万名にファミマ・ザ・クレープ100円引きクーポンが当たるんだ!」

「還元率45%!? クーポン3万名!? ファミマの資金力、どうなってんだよ……」
部員たちは、次々と繰り出される「45」という数字の暴力に、完全に打ちのめされていた。それは心地よい敗北感であり、明日からの食生活に対する大いなる希望の光であった。
4. ネットの熱狂と、理性を失った大食い男子の暴走
SENAは自分の興奮を抑えきれず、X(旧Twitter)の検索窓に「ファミマ 増量」と打ち込んだ。画面には、彼と同じようにこの発表を目撃した日本中のネットユーザーたちの声が、滝のようにリアルタイムで流れ込んでいた。
『ファミマ、またバグみたいなキャンペーン始めたぞwww 45%ってなんやねんwww』
『物価高でみんな苦しんでる時に、値段そのままで45%増量とか、ファミマは神なのか? 企業努力のエグさに涙出る。』
『ファミチキの45%増量とか、もはやチキンステーキだろ。絶対買う。』
『ダイエットは明日から! いや、キャンペーン終わるまで中止!』
『生チョコのクレープ、ただでさえ美味しいのに45%増えたら致死量の幸福感だわ。ファミマ狂ってる(最上級の褒め言葉)』
『いちばんチャレンジってスローガン、ガチだったんだな。消費者に寄り添う姿勢、素直に応援したくなる。』
タイムラインは、驚きと歓喜、そしてファミマへの感謝の言葉で溢れ返っていた。普段は殺伐としがちなSNSの海が、今日ばかりは「お値段そのまま おかわり45%増量作戦」という巨大な祭りの提灯で明るく照らされているようだった。
SENAは、無数のポストをスクロールしながら、胸の奥底から熱いものが込み上げてくるのを感じた。
「みんな……みんな同じ気持ちなんだな……。この苦しい時代に、一筋の光を見出しているんだ……!」
SENAの心臓は、これまでにないほど激しく脈打っていた。彼の脳内はすでに、巨大なファミチキを口いっぱいに頬張り、肉汁と脂の甘みを堪能する自分の姿で満たされていた。視覚、嗅覚、味覚、全てがファミチキを求めて叫んでいた。
「もう……我慢できない……!」
SENAはスマートフォンをポケットにねじ込むと、床に放り投げてあったリュックサックを乱暴にひったくった。
「おい、SENA? どこ行くんだよ?」
怪訝な顔をする部員たちを振り返り、SENAは目を血走らせて叫んだ。
「決まってんだろ! ファミマだよ! ファミチキおかわり! 45%増量の巨大ファミチキを、今すぐこの胃袋にぶち込んでやる! 今すぐ行くぞ!!」
「え? いや、でもお前……」
部員の一人が何かを言いかけたが、SENAの耳には全く届いていなかった。彼は「ウォーッ!」という獣のような雄叫びを上げると、部室の扉を勢いよく開け放ち、灼熱の廊下へと飛び出していった。
残された部員たちは、開けっ放しになった扉から吹き込んでくる熱風に顔をしかめながら、ポツリと呟いた。
「あいつ……開始日が『8月4日』からってこと、完全に見落としてるよな……」
「うん……今日は8月3日だもんな。発表されただけで、まだ始まってないのに……」
「……止めなくていいのか?」
「……まあ、いいんじゃね? どうせすぐ戻ってくるさ。あいつのあの勢い、もう誰にも止められないし」
部員たちは苦笑いしながら、再び机に突っ伏し、明日から始まる大増量祭りに向けて胃袋を休めるべく、微睡みの世界へと戻っていったのである。
5. 歓喜のフライングダッシュ!目指すは黄金のチキン
「うおおおおおおおおっ!! ファミチキ! ファミチキ! ファミチキーーーッ!!」
大学のキャンパスから最寄りのファミリーマートまでは、歩いて5分ほどの距離だった。しかし、今のSENAにとって、その距離は永遠にも感じられた。
真昼の容赦ない太陽が、容赦なくSENAの体を焼き付ける。アスファルトの温度は軽く50度を超えているだろう。靴底から伝わる熱と、肺に吸い込む熱風が、彼の体力を急速に奪っていく。しかし、彼の足は決して止まらなかった。
なぜなら、彼の目の前には、黄金色に輝く巨大なファミチキの幻影が浮かんでいたからだ。
「あのサクサクの衣……溢れ出す肉汁……それが1.45倍……! お値段そのまま、248円……! 神よ、ファミマよ、ありがとう……!」
SENAは、すれ違う学生たちから怪訝な視線を浴びていることなど全く気づかず、ただひたすらにコンビニの看板を目指して疾走した。
彼の頭の中では、様々な思考が駆け巡っていた。 (今日はファミチキを最低2個は買うぞ。いや、待てよ。ハムサンドもパスタサラダもクレープも買わなきゃならない。予算は……よし、財布には千円札が2枚入っている。完璧だ。まずはファミチキを頬張りながら、千切りキャベツで胃袋の準備運動をして、メインのパスタサラダを平らげる。そして食後のデザートに巨大な生チョコのクレープだ。完璧なフルコースじゃないか!)
物価高で縮こまっていた彼の胃袋と精神が、今、45%増量という希望によって、大きく、大きく膨らみ始めていた。それは単なる食欲の暴走ではなく、抑圧された日常からの解放を求める、若者の魂の叫びであった。
「見えたっ!」
交差点を曲がると、オアシスのように佇むファミリーマートの店舗が見えた。自動ドアの向こう側には、涼しいエアコンの風と、パラダイスのような商品の数々が待っているはずだ。
SENAは最後の力を振り絞り、スプリントの選手のような猛ダッシュで店舗へと突入した。
6. レジ前での急転直下!冷静沈着な店員shimoの神対応
「ウィーン」という自動ドアの開く音とともに、SENAは店内に転がり込んだ。
「涼しい……!」
全身の毛穴から汗が吹き出していたSENAにとって、店内の冷気はまさに生き返るような心地だった。しかし、涼んでいる暇はない。彼の目的はただ一つ、45%増量された黄金の肉塊を手に入れることだ。
彼は荒い息を吐きながら、迷うことなくレジ横のホットスナックケースへと直行した。
「さあ、見せてみろ! 1.45倍に巨大化したファミチキの勇姿を……!」
SENAは期待に胸を膨らませ、ショーケースのガラスを覗き込んだ。
しかし——。
「……あれ?」
そこには、見慣れたサイズの、いつもの「普通の」ファミチキが、行儀よく並んでいるだけだった。どこからどう見ても、45%も増量しているようには見えない。むしろ、見慣れすぎて安心感すら覚える、いつものアイツである。
SENAは目をこすり、もう一度ショーケースの中を確認した。しかし、現実(サイズ)は変わらない。
「おかしいな……あ、そうか!」
SENAはポンと手を打った。
「なるほどね。あまりにもデカすぎて、このショーケースに入りきらないんだな! だから裏のフライヤーのところで特別に保温してるってわけか。ファミマめ、心憎い演出をしてくれるじゃないか!」
完全に自分の都合の良いように脳内変換を完了させたSENAは、自信満々の笑みを浮かべ、レジの前に立った。
レジには、名札に「shimo」と書かれた男性店員が立っていた。shimoは、清潔感のある身なりと、落ち着いた物腰、そしてどんな客に対しても動じないような、静かで穏やかな微笑みを湛えていた。
「いらっしゃいませ」
shimoは、全身汗だくで息を荒くしているSENAに対しても、全く表情を変えることなく、プロフェッショナルな接客トーンで挨拶をした。
SENAは、カウンターに両手をドンッと突き、満面の笑みで叫んだ。

「お兄さん! 45%増量のファミチキ、裏にあるんでしょ!? あるだけ全部、いや、とりあえず3つください!! あと、増量してる生チョコのクレープも!!」
店内に、SENAの大きすぎる声が響き渡った。近くで雑誌を立ち読みしていた客や、お弁当を選んでいた客たちが、一斉にこちらを振り向いた。
しかし、店員shimoの表情は、一ミリたりとも動かなかった。彼はSENAの目をまっすぐに見つめ、あの穏やかな微笑みを崩さないまま、ゆっくりと、そしてはっきりと、こう告げたのである。
「お客様。大変申し訳ございません」
「え?」
「そちらの『お値段そのまま おかわり45%増量作戦』のキャンペーンでございますが……」
shimoは、レジ横に置かれた小さなカレンダーを指差した。
「開始は、明日、8月4日の火曜日からとなっております。本日は8月3日ですので、現在は通常サイズのみの販売となっております」
「……」
「…………」
静寂。 店内のBGMで流れている、ファミマおなじみの軽快なメロディだけが、やけにクリアに聞こえた。
SENAの脳内で、何かがガラガラと音を立てて崩れ去っていく音がした。
「明日から……?」 彼は自分のスマートフォンを取り出し、震える手で先ほどのXの画面を再確認した。
【第1週: 8/4(火)から】 【実施期間: 2026年8月4日(火)~】
はっきりと、誰の目にもわかるように、「8月4日から」と書かれていた。今日は8月3日。つまり、たった今発表されたばかりのニュースを見て、一人で勝手に熱狂し、確認もせずに真夏の太陽の下を猛ダッシュで駆け込んできたということだ。
「あ……」
SENAの顔が、耳の裏まで一気に真っ赤に染まった。まるで茹で上がったタコのように赤くなった顔から、先ほどとは違う種類の、冷や汗とも言える大量の汗が噴き出した。
周囲の客たちの「なんだ、勘違いか」「恥ずかしいやつだな」という心の声が、無言の視線となってSENAの背中に突き刺さる。穴があったら入りたい。いや、むしろ今すぐ自分が45%縮小して消えてなくなりたい。
SENAはパニックになりながら、目の前のshimoを見た。shimoは相変わらず、完璧な微笑みを浮かべて立っている。その優しさが、逆にSENAの恥ずかしさを増幅させた。
「あ、あの……その……」
SENAの口から、情けない声が漏れる。このまま何も買わずに逃げ帰るか? いや、それはあまりにもダサすぎる。大食いサークルの名折れだ。なんとかして、この絶望的な空気を誤魔化さなければ。
フル回転するSENAの脳味噌が導き出した答えは、極めて不器用で、いじらしい照れ隠しだった。
「あ……あはは……知ってましたよ! もちろんです! 明日からですよね! ははは……」
SENAは顔を真っ赤にしたまま、ぎこちない笑顔を作り、声を裏返しながら言った。
「じゃ、じゃあ……今日は、明日の本番に向けた『予行練習』ってことで! この普通の、通常の、いつものサイズのファミチキを……一つください!」
それは、誰がどう聞いても苦し紛れの言い訳だった。周りの客の何人かが、思わず「ふふっ」と吹き出す声が聞こえた。SENAはもう、恥ずかしさのあまり直立不動になっていた。
しかし、店員shimoの対応は、まさに「神」であった。
彼は一切馬鹿にするような素振りを見せず、深く頷き、この上なく丁寧な声で応えた。
「かしこまりました。明日の『本番』に向けた予行練習ですね。通常のファミチキ、一つ、喜んでご用意させていただきます」
shimoは手際よくショーケースを開け、トングでファミチキを紙袋に包み、テープを貼ってSENAに差し出した。
「お会計、248円でございます」
SENAは震える手で小銭を出し、ファミチキを受け取った。
「あ、ありがとうございます……」
逃げるように店を出ようとするSENAの背中に、shimoの澄んだ声が響いた。
「お客様!」
SENAがビクッと肩を揺らして振り返ると、shimoは今日一番の、温かい笑顔を向けていた。
「明日のご来店、心よりお待ち申し上げております。明日は……『45%増量』で、お待ちしておりますね」
その言葉に、SENAの胸の奥底で、恥ずかしさとは別の、何か温かいものがじんわりと広がっていくのを感じた。
「……はい! 明日、絶対に来ます!!」
SENAは深く一礼し、今度こそファミマの自動ドアを抜けて、夏の太陽の下へと歩き出した。
7. 通常のファミチキをかじりながら考える、社会の希望と明日への誓い
帰り道。SENAは、先ほどまでの猛ダッシュの疲れと、あまりの恥ずかしさで、とぼとぼと歩いていた。
手の中には、通常のサイズのファミチキが、ほんのりと温かさを保ったまま握られている。SENAは紙袋を破り、いつものようにガブリと一口かじった。
「サクッ……ジュワッ……」
スパイシーな衣の食感に続き、鶏肉の旨みと脂が口いっぱいに広がる。
「……うまい」
当たり前だ。通常のサイズだって、ファミチキは最高に美味しいのだ。SENAは咀嚼しながら、ふと立ち止まり、青空を見上げた。
「なんで俺、あんなに熱くなってたんだろうな……」
独り言を呟きながら、彼は改めて、今日の出来事と、このキャンペーンの意味について深く考え始めていた。
物価が上がり続け、あらゆるものが小さく、少なくなっていく今の時代。スーパーに行っても、コンビニに行っても、どこか閉塞感があり、「また値上げか」「また小さくなったか」というため息ばかりが聞こえてくる。生活を守るために、誰もが財布の紐を固く締め、我慢を強いられている。
大学生である自分たちもそうだ。食費を削り、安いものを探し求め、お腹いっぱい食べるという単純な幸せすら、贅沢なことになりつつある。
そんな暗く沈んだ世の中の空気を、吹き飛ばすようなキャンペーン。それが「お値段そのまま おかわり45%増量作戦」なのだ。
「ファミリーマート45周年……『いちばんチャレンジ』、か」
SENAは、ニュースリリースに書かれていた企業のメッセージを思い出した。
ただ利益を追求するだけではなく、消費者に「おいしい」「わくわく楽しい」「ちょっとおトク」を届けるための、過去最大の挑戦。企業側にとっても、値段を据え置いて量を4.5割も増やすというのは、利益を削る身を切るような決断だったはずだ。そこには、ただの商品販売を超えた、社会全体に対する「エール」のようなものが込められているのではないか。
SENAは想像した。
明日、8月4日。このキャンペーンが始まった時、日本中でどんな光景が広がるだろうか。
節約のために、普段はコンビニでの買い物を我慢しているお母さんが、今日だけはと、45%増量された「3色そぼろ&チキン南蛮弁当」を買い、子供たちと笑顔で分け合う姿。
夜勤明けで疲れ切ったサラリーマンが、1.5倍に膨れ上がった「たっぷりハムサンド」と「白桃香るルイボスティー」を手に取り、そのボリュームに思わずクスッと笑い、少しだけ元気を取り戻して帰路につく姿。
そして、自分のような腹ペコの学生たちが、巨大なファミチキを片手に、「ファミマ最高!」と歓声を上げる姿。
その中心には、あの冷静で優しい店員、shimoさんのような人たちが、休むことなく温かい商品を提供し続けてくれる姿がある。
「すごいな……」
SENAは、手の中のファミチキの最後の一口を飲み込みながら、感動に近い思いを抱いていた。
コンビニエンスストアという、日常の極めて身近な場所から発信される、小さな、しかし確かな希望。企業が本気で消費者を喜ばせようと挑戦し、消費者がそれに応えて笑顔になる。社会情勢がどれだけ厳しくても、人間社会には、こうして互いを思いやり、喜びを共有し合う逞しさと温かさが残っているのだ。
「フライングしちゃって、恥はかいたけど……でも、なんだかすごく良い日だったな」
SENAは、空になったファミチキの袋を丁寧に折りたたみ、ポケットにしまった。
明日からは、いよいよ本番だ。第1週のラインナップだけでも、ファミチキ、パスタサラダ、クレープと、食べたいものが山ほどある。第2週になれば、大盛たこ焼きやチキン南蛮弁当も待っている。ファミペイの45%還元キャンペーンにもエントリーしなければならないし、Xでクレープのクーポンも当てなければならない。忙しい夏になりそうだ。
「よし!」
SENAは、再び気合を入れ直し、大学のサークル室へと向かって歩き出した。今度は走らず、一歩一歩、力強く。
明日、もう一度あのファミマに行こう。 shimoさんに「昨日の予行練習の成果を見せに来ました!」と、とびきりの笑顔で宣言してやろう。そして、45%増量の巨大なファミチキを、誰よりも美味しそうに頬張るのだ。
うだるような猛暑の空の下。 大学生SENAの心には、満たされない胃袋の不満の代わりに、明日へのワクワクとした期待と、人間社会の温かさへのささやかな希望が、45%以上の大増量でパンパンに膨れ上がっていた。
(完)
このショートストーリーは、以下のサイトを参考にさせて頂きました。
https://www.family.co.jp/campaign/spot/2608_zoryo45_VdaicYwU.html
https://www.family.co.jp/company/news_releases/2026/20260803_01.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002437.000046210.html
https://x.com/famima_now















































