令和8年7月14日 『もりながるマックのキメ顔とビブラートの鳴る夜』

 

『もりながるマックのキメ顔とビブラートの鳴る夜』(架空で空想のショートストーリー)※画像はAIによるイメージと公式サイトからの転載です

第1章:令和8年の灼熱と、深夜のオフィスに響くビブラート

令和8年、つまり2026年7月14日の夜。東京都内にある大手広告代理店のオフィスビルは、深夜に差し掛かろうとしているにもかかわらず、煌々と冷たいLEDの光を放っていた。窓の外に広がる大都会の夜景は、連日の猛暑日を記録した名残の熱気を孕み、アスファルトから立ち昇る蜃気楼のように街の輪郭をわずかに歪ませている。2026年の日本は、気候変動の影響を色濃く受け、亜熱帯を思わせるような容赦のない気候に包まれていた。それに加えて、AI技術の爆発的な普及や、長引く経済の不安定さ、先の見えない社会情勢の波に飲まれ、人々はどこか慢性的な疲労とストレスを抱えながら日々を生き抜いている。そんな時代にあって、「いかにして人々の心に、一時でも純粋な喜びと笑いを届けるか」という命題は、広告という仕事に携わる者にとって、かつてないほど重く、そしてやりがいのある課題となっていた。

オフィスの片隅、パーティションで区切られたデスクで、若手プランナーのSENAは、デュアルモニターの前に座り込んでいた。彼の肩には、連日の徹夜作業による重い疲労がのしかかっているが、その瞳にはどこか楽しげな光が宿っていた。SENAの視線の先にあるモニターでは、いよいよ明日、7月14日から全国で一斉に放映開始となったマクドナルドの新TVCM「もりながる、夏」篇の最終チェック用の映像が、ループ再生されている。

画面の中では、夏の青空の下、のどかな釣り堀というシチュエーションで、白と赤の鮮やかな衣装に身を包んだ狩野英孝さんが、アコースティックギターをかき鳴らしている。そして、あの独特の、一度聴いたら脳裏から離れないネットリとしたビブラートを効かせた声で、「クエッ、クエッ、クエ〜♪」と、森永製菓「チョコボール」の往年の国民的CMソングを、彼ならではの強烈な「狩野節」で熱唱していた。

「クエッ、クエッ、クエッ〜♪」

画面の中の狩野さんが、カメラに向かって完璧なまでの「キメ顔」を放つ。その目力と、少しだけ口角を上げた自信に満ちた表情の絶妙なアンバランスさに、SENAは何度見てもこらえきれず、思わず「ふふっ」と吹き出してしまった。

「おいSENA、お前またその画面見てニヤニヤしてんのか」

背後から、氷がカラカラと鳴る冷たいアイスコーヒーのプラスチックカップを持ったshimoが、呆れたような声で話しかけてきた。shimoはSENAの先輩であり、直属の上司でもあるベテランプランナーだ。彼はこの業界の酸いも甘いも噛み分けたような飄々とした態度を崩さないが、仕事に対しては誰よりもシビアな視点を持っている。

「あ、shimoさん。お疲れ様です。いや、だってこれ、何度見ても面白すぎません? 狩野さんのこのキメ顔とビブラートの破壊力、AIの時代にこの泥臭い人間味の極致みたいな表現、絶対今の世の中に刺さりますよ」

SENAは振り返り、shimoから差し入れのアイスコーヒーを受け取りながら熱っぽく語った。shimoはSENAの隣の空いた椅子に腰を下ろし、モニターの中の狩野英孝をじっと見つめた。

「まあな。確かに、計算されたAIのクリエイティブじゃ絶対に出せない『バグ』みたいな面白さがある。完璧に作り込まれた広告があふれる中で、こういう『突っ込みどころ』を残しておくのが、今の時代、一番のスパイスになるんだよ」

shimoの言葉に、SENAは深く頷いた。明日から始まる「マックの森永スイーツ」キャンペーンは、ただの新商品の告知ではない。社会全体がどこか息苦しさを感じているこの2026年の夏に、マクドナルドと森永製菓という、長年日本の消費者に寄り添ってきた二つの巨大ブランドがタッグを組み、人々に「おいしさと笑顔」を届けるための、壮大なエンターテインメントの幕開けなのだ。SENAは、自分がそのプロジェクトの中核を担っていることの重みと誇りを、冷たいコーヒーの苦味とともに噛み締めていた。

第2章:釣り堀の奇跡〜「クエッ」に込められた狩野英孝の魂〜

SENAの脳裏に、数週間前に行われたCM撮影現場の記憶が、鮮明な色彩を伴って蘇ってきた。

撮影が行われたのは、都心から少し離れた場所にある、緑豊かな自然に囲まれた古い釣り堀だった。その日も、今日と同じような、空が白飛びするほどの強烈な日差しが降り注ぐ真夏日だった。スタッフたちは汗だくになりながら機材をセッティングし、熱中症対策のための巨大な扇風機と塩飴が現場を飛び交っていた。

そんな過酷な環境下にあっても、現場の空気はどこかワクワクとした活気に満ちていた。それは他でもない、主演を務める狩野英孝さんが放つ、周囲を巻き込むような明るいオーラのおかげだった。

SENAはモニターテントの裏から、撮影の様子を見守っていた。監督から「アクション!」の声がかかると、狩野さんは水面がキラキラと光る釣り堀の桟橋に立ち、おもむろにギターをジャカジャーンと鳴らした。

「クエッ、クエッ、クエッ〜♪」

その瞬間、現場の空気が一変した。ただの替え歌ではない。狩野さんは、120年以上の歴史を持つ森永製菓の看板商品「チョコボール」の、あの誰もが知る国民的メロディーを、全身全霊を込めて、まるで壮大なロックバラードのように歌い上げたのだ。彼の声帯から震え出る独特のビブラートは、夏の熱気を含んだ風に乗って、釣り堀の隅々にまで響き渡った。

カメラが回っていない間も、狩野さんは日陰のパイプ椅子に座り、何度も何度もギターのコードを確認し、歌の練習を繰り返していた。その姿をSENAは見ていた。「好きにアレンジしていいですよ」という監督の指示に対し、狩野さんはインタビューで「こんな国民的ソングにいじっちゃっていいのかなという不安もあった」と語っていたが、その実、彼は与えられた自由の中で、いかにして視聴者の期待を超え、かつ「ウザ面白さ」という自分の持ち味を最大限に発揮するかを、真剣に計算し尽くしていたのだ。

そして、撮影現場をさらに盛り上げたのが、森永製菓のキャラクター「キョロちゃん」の登場だった。真夏の炎天下での着ぐるみという、過酷を極める状況下であったが、キョロちゃんが現場に姿を現した瞬間、狩野さんは少年のように目を輝かせ、「キョロちゃんだー!」と大興奮の声を上げた。その無邪気な反応に、ピリピリしがちな撮影現場のスタッフたちも思わず頬を緩め、現場は一気に和やかな空気に包まれた。

青空の下、狩野さんとキョロちゃんが並んで共演するシーンは、まさに「奇跡と奇跡のコラボ」を象徴するような、ハッピーな画になった。SENAは、この現場の熱量と笑顔が、そのまま電波に乗って全国の視聴者に届けば、絶対にこのキャンペーンは成功すると、その時強く確信したのだった。

第3章:NGカットに見る「素」の感動〜シェイクが止めた時間〜

しかし、SENAがこのCM撮影で最も強烈に記憶しているのは、完璧に計算されたパフォーマンスのシーンではない。それは、狩野さんが「マックシェイク 森永ラムネ」を飲むシーンでの、ある「NGカット」の出来事だった。

絵コンテ上の段取りはこうだった。狩野さんが冷たいマックシェイクを一口飲み、その爽快感に目を見開き、カメラに向かってバッチリとキメ顔を作りながら、商品名をアピールする。非常にシンプルで、広告としては王道の流れだ。

カメラが回り、照明が狩野さんを照らす。彼は手にした「マックシェイク 森永ラムネ」のストローに口をつけ、勢いよく一口吸い込んだ。その瞬間だった。

狩野さんの動きが、ピタリと止まったのだ。

カメラを見据えるはずの視線は宙を泳ぎ、キメ顔を作るはずの顔の筋肉は、純粋な驚きと感動によって無防備に緩んでいた。彼は数秒間、完全に「素」の状態になり、ただ静かに口の中に広がる風味を味わっているようだった。

「……あ、美味い。何これ、すっご……」

マイクが拾ったのは、演技でもなんでもない、一人の人間としての純粋な感嘆のつぶやきだった。監督が「……はい、カット!」と少し戸惑い気味に声をかけるまで、狩野さんはただシェイクを見つめて立ち尽くしていた。

「ああっ! すみません! 美味しすぎて、普通に感動しちゃって演技に入るの忘れました!」

我に返った狩野さんが慌てて頭を下げる姿に、現場はドッと沸いた。SENAもモニターの前で腹を抱えて笑ったが、同時に心の奥底で深い感銘を受けていた。

後日行われたインタビューで、狩野さんはこの時のことを振り返り、こう語っている。

「マックシェイク 森永ラムネに関しては、シェイクを初めて飲んだ時のあの感動と、そしてラムネのどこか懐かしさもあり、思いに一口一口飲むたびにジーンと来る味でしたね。僕の中では」

SENAはこの言葉を思い出しながら、商品が持つ本当の力について深く考えさせられた。広告代理店の人間として、いかに魅力的なコピーを書き、美しい映像を作ろうとも、結局のところ、最後に消費者の心を動かすのは「商品そのものの圧倒的なクオリティ」なのだ。狩野英孝という、酸いも甘いも経験してきた大人の男性を、撮影中という緊張感の中で完全に「素」に引き戻し、無言にさせてしまうほどの美味しさ。それこそが、このキャンペーンの最大のセールスポイントであり、武器なのだとSENAは悟った。

「あのNGカット、メイキング映像としてネットで流したいくらいですよ」

SENAがモニターから目を離さずに言うと、shimoも同意するように頷いた。

「だな。あれは嘘が一切ない表情だった。消費者はそういう『本物のリアクション』に一番敏感だからな。AIがどれだけ精巧なフェイク動画を作れる時代になっても、人間の味覚と感情が直結した瞬間のあの表情だけは、絶対に作れない」

第4章:120年の歴史を背負う、奇跡のトリプルコラボの全貌

SENAは手元の分厚いキャンペーン資料に目を落とした。そこに記載されている3つの商品は、マクドナルドと森永製菓が気の遠くなるような試行錯誤の末に生み出した、まさに「奇跡のトリプルコラボ」の結晶だった。彼自身、数え切れないほどの企画会議や試食会に参加し、この商品たちが完成していく過程を肌で感じてきた。

まず一つ目は、初登場となる「マックフルーリー チョコボール」。価格は370円からで、午前10時30分から閉店まで(24時間営業店舗では翌午前1時まで)販売される。 この商品の真骨頂は、何と言ってもその食感にある。なめらかで濃厚なソフトクリームの中に、森永製菓の「チョコボール」と全く同じピーナッツトッピングがふんだんにミックスされているのだ。試食会でSENAが初めてスプーンを口に運んだ時、ソフトクリームの冷たさと甘さの後に、あの「カリッ」という懐かしくも心地よいピーナッツの食感が弾けた時の驚きは今でも忘れられない。さらに、ただピーナッツを入れるだけでなく、森永製菓監修のもと、ピーナッツ風味のチョコソースとミルクチョコソースの2種類を絶妙なバランスでブレンドしている。一口食べるごとに、120年以上愛され続けてきたチョコボールの歴史と、マックフルーリーの革新性が口の中で融合する、まさに至福のスイーツだった。

二つ目は、「マックシェイク 森永ラムネ」。Sサイズが190円から、Mサイズが270円からで、こちらも午前10時30分から閉店まで販売される。 この商品は、実は全くの初登場ではない。2020年、世界中が未知のパンデミックの恐怖に怯え、社会全体が深い閉塞感に包まれていたあの年に一度販売され、瞬く間に大ヒットを記録した伝説のフレーバーなのだ。あれから6年。2026年という、また別のストレスと疲労が渦巻く現代社会に、この味が再び降臨することには、単なる復刻以上の深い意味があった。 スッキリとした爽やかなラムネの爽快感。ブドウ糖が主成分であるラムネの風味は、猛暑でバテた身体と、デジタル社会で疲弊した脳に、一筋の清涼な風を吹き込んでくれる。それにマックシェイク特有のクリーミーでやさしい甘さが加わることで、尖りすぎない、絶妙に丸みを帯びた癒しの味に仕上がっている。狩野さんが「一口飲んで体も頭も1回冷やしてシャキッとなって、仕事や勉強や遊びに本気で取り組んでいけるきっかけになるんじゃないか」と語った通り、これは現代人を再起動させるための、飲むエナジースイーツと言っても過言ではなかった。

そして三つ目が、「森永ミルクキャラメルパイ」。価格は200円からで、嬉しいことに開店から閉店まで、どの時間帯でも購入可能だ。朝のコーヒーのお供にも、深夜の小腹満たしにも最適なこのホットスイーツは、開発陣の並々ならぬこだわりが詰まっている。 一口かじると、まず焦がしキャラメル風味に仕立てられたサクサクのパイ生地の香ばしさが鼻を抜ける。そして中からは、火傷しそうなほど熱々で、濃厚な甘みを持つキャラメルクリームと、やさしい後味を残すキャラメルクリームの、性質の異なる2種類のフィリングがとろけ出し、口の中で複雑に絡み合う。明治時代から続く、あの黄色い箱の森永ミルクキャラメルの深いコクと郷愁を、マクドナルドのホットパイというフォーマットに見事に落とし込んだ傑作だった。

これら3つの圧倒的なプロダクト。価格帯も190円から370円という、誰もが手に取りやすい設定に抑えられている。インフレが進行し、あらゆる物の値段が上がる2026年において、数百円で得られるこの「確実な幸せ」の価値は、計り知れないほど大きいものだとSENAは確信していた。

第5章:突っ込まれ7割、説教3割の仕事術と変幻自在な生き方

モニターの中のCM映像は終盤に差し掛かっていた。熱唱し、キメ顔を連発する狩野さんに対し、画面外から女性のクールなツッコミの声が入る。それに合わせて、狩野さんが少し戸惑ったような、それでいてどこか愛嬌のある表情を見せ、「はい。」と一言だけ呟いてCMは終わる。

「このツッコミのタイミングと間、何度見ても完璧ですよね」 SENAが言うと、shimoがコーヒーの氷を揺らしながら答えた。

「ああ。狩野英孝というキャラクターの面白さは、ただ自分が前に出るだけじゃなく、他者からの『ツッコミ』を受けて初めて完成する。本人がインタビューで言ってたろ。『突っ込まれ7割、説教3割』ってな」

その言葉を聞いて、SENAは自分自身のこれまでの社会人生活を思い返していた。入社してからの数年間、SENAもまた、shimoをはじめとする先輩たちからツッコまれ、時には厳しい説教を受けながら、泥臭く成長してきた。企画書を突き返され、クライアントの要望に応えられず徹夜を繰り返し、自分の無力さに打ちひしがれる夜も数え切れないほどあった。

しかし、その「突っ込まれ」や「説教」があったからこそ、今の自分がある。一人で完璧なものを作ろうとするのではなく、周囲の意見を吸収し、修正し、泥にまみれながら形にしていく。それは、狩野さんが様々なアーティストや企業とコラボし、「全部1人で解決してたことが、こう喋ったらこう打ち返してくれるんだと感動する」と語った境地と、どこか通じるものがあるように思えた。

「狩野さんが『愛され続けるために大事なこと』として、『期待を超えていく』ことと、『変幻自在』であることを挙げてましたよね」 SENAは、狩野さんのインタビュー原稿のハイライト部分を読み上げながら言った。

「美味しいのは当たり前。そこにプラスして、期待をさらに上回るオプションがついてくるかどうか。そして、どんな形にも変幻自在に当てはまれるかどうか。それって、僕ら広告クリエイターにも、いや、今の社会を生きるすべての人間に当てはまる普遍的な真理じゃないですかね」

AIが定型的な業務を次々とこなしていくこれからの時代。ただ言われたことを正しくやるだけでは、すぐに代替されてしまう。「当たり前」以上の何か、人間ならではの泥臭い付加価値、相手の予測を裏切るようなプラスアルファの驚きを提供できるか。

そして、変化の激しい社会情勢の中で、自分の過去の成功体験に固執せず、水のように変幻自在に形を変えながら、様々な場所で自分の役割を見つけ出していけるか。 ピン芸人としてデビューし、時に失敗し、時に頭を下げながらも、歌、ゲーム実況、神主と、あらゆる顔を持ちながら第一線で愛され続ける狩野英孝の生き様は、不安定な時代を生きるSENAたちに、強い希望と勇気を与えてくれる羅針盤のように思えた。

「お前も言うようになったな」 shimoが少しだけ口角を上げて笑った。 「俺たちの仕事も同じだ。クライアントの課題に対して、当たり前の解決策を出すだけじゃダメだ。期待を超えて、消費者の心を動かし、社会に何か小さな波を起こす。それができなきゃ、徹夜してこんな仕事やってる意味がない」

第6章:深夜のX(旧Twitter)キャンペーン攻防戦

時計の針は午後11時55分を指していた。いよいよ7月15日が目の前に迫っている。 SENAはモニターの画面を切り替え、マクドナルド公式X(旧Twitter)アカウントの管理ダッシュボードを開いた。これから数日間、SENAたちデジタルマーケティングチームにとっての「主戦場」となる場所だ。

「よし、予約投稿の最終確認に入ります」 SENAの声に緊張感が走る。shimoも身を乗り出し、デュアルモニターの右側を注視した。

今回の「マックの森永スイーツ」キャンペーンでは、ファンを巻き込む大規模なXキャンペーンが仕掛けられていた。 まず、7月15日(水)の朝7:00から23:59まで、ハッシュタグ「#もりながるマックの森永スイーツ」を使ったリプライキャンペーンが開始される。

そして翌日、7月16日(木)の朝8:00からは、ハッシュタグを「#クエックエックエッマックの森永スイーツ」と、より狩野さんのCM色を強めたものに変更し、二段構えでSNSのタイムラインをジャックする計画だ。 マクドナルド公式アカウントをフォローし、指定の投稿にハッシュタグをつけてリプライしたユーザーの中から、抽選で合計100名にマックカード1,000円分がプレゼントされる。

「ハッシュタグのスペルミスなし。時間指定、15日7時00分、16日8時00分で間違いなし。抽選ツールのAPI連携も正常。自動リプライのテキストも、薬機法・景表法のクリアランス完了しています」 SENAが一つ一つ指差し確認をしながら読み上げる。

「100名に1000円分のマックカード。総額10万円のインセンティブだ」 shimoが腕を組みながら呟いた。 「大企業の広告予算からすれば微々たる金額に見えるかもしれない。だがな、SENA。この『1000円分のマックカード』が当たるということが、どれだけの人間の日常に小さな光を差すか、想像してみろ」

SENAはキーボードに置いていた手を止め、shimoの言葉に耳を傾けた。

「世の中には、毎日の昼代を削って満員電車に揺られているサラリーマンがいる。深夜までファミレスでテスト勉強をしている高校生がいる。ワンオペ育児で自分の時間なんて1秒もない母親がいる。そういう人たちが、ふとスマホを開いて、狩野英孝のふざけたCMを見て少しだけ笑う。

そして、ダメ元でリプライを送ったら、1000円のマックカードが当たる。その1000円で、彼らは家族に内緒で少しだけ贅沢なフルーリーを食べたり、疲れた頭をシャキッとさせるために冷たいラムネシェイクを飲んだりできるんだ。俺たちが今仕掛けているこのシステムは、単なるバズ作りじゃない。そういう、目に見えない誰かの『1日の救い』を無作為に届けるための、希望の配送システムなんだよ」

shimoの言葉は、深夜の静かなオフィスに深く響いた。SENAは、自分が扱っている仕事が単なるデジタルデータのやり取りではなく、血の通った人々の生活に直結しているのだという事実を、雷に打たれたように再認識した。

「はい。このキャンペーンを通して、たくさんの人に『もりながる夏』のハッピーを届けます。絶対に成功させます」

SENAは力強く頷き、予約投稿の最終確定ボタンを「ターン!」と音を立ててエンターキーで押し込んだ。

第7章:もりながる夜明け、そして希望の夏へ

2026年7月15日、午前0時00分。 SENAのスマートウォッチが小さく振動し、日付が変わったことを知らせた。

「よし、これで俺たちの事前準備はすべて完了だ。あとは野となれ山となれ、だな」 shimoが大きく伸びをしながら立ち上がった。その顔には、徹夜明け特有の疲労感と、大きな仕事をやり遂げた後の安堵感が入り混じっていた。

「お疲れ様でした、shimoさん」 SENAも立ち上がり、深くお辞儀をした。

「マクドナルドの企業理念知ってるか?『おいしさと笑顔を地域の皆さまに』だ」 shimoは空になったコーヒーカップをゴミ箱に投げ入れながら言った。

「AIがどれだけ賢くなろうが、株価が上がろうが下がろうが、人間がお腹を空かせて、甘いものを食べて笑顔になるっていう本質だけは、絶対に変わらない。俺たちはその本質に、広告っていう手段で寄り添い続けるだけだ」

SENAは窓の外を見た。熱帯夜の闇に沈む巨大な都市。この街で眠る数千万の人々が、数時間後には目を覚まし、それぞれの過酷な現実に立ち向かっていく。満員電車、ノルマ、人間関係の軋轢。

しかし、明日の彼らの日常の風景の中には、きっと黄色い「M」のマークと、森永製菓の懐かしいお菓子のパッケージ、そして狩野英孝の振り切れたキメ顔と「クエッ、クエッ、クエ〜♪」というビブラートが待ち受けているはずだ。

「あのフルーリーのカリカリの食感。ラムネシェイクの突き抜けるような爽快感。キャラメルパイの火傷しそうなほどの熱い甘さ。あれが、みんなの夏バテのスイッチを切り替えて、心をシャキッとさせてくれるはずです」

SENAは、自分がこれまでに書き溜めてきた企画書の言葉ではなく、自分自身の心からの言葉としてそう呟いた。

「ああ。きっと明日のタイムラインは、キョロちゃんと狩野英孝とマックのスイーツで埋め尽くされるさ。さあ、帰るぞ。明日、昼飯食いがてら、マック行ってラムネシェイクでも奢ってやるよ」 shimoがSENAの肩を軽く叩き、オフィスの出口に向かって歩き出した。

「本当ですか! やった、Mサイズでお願いしますね!」 SENAは慌ててデスクの上を片付け、shimoの背中を追いかけた。

オフィスの照明を落とす直前、SENAは最後にもう一度だけ、スリープ状態になる前のモニターに目をやった。 そこには、夏の青空を背に、満面の笑みでギターを抱える狩野英孝の姿が静止画として残っていた。その顔は、これから始まる最高の夏を予告しているかのように、圧倒的な肯定感に満ちていた。

「はい。」

SENAは心の中で、CMの最後の狩野さんのセリフを真似て、静かに返事をした。 時代がどう変わろうとも、人間に笑いと美味しいものがある限り、世界はまだ大丈夫だ。そんな根拠のない、しかし確かな希望を胸に抱きながら、SENAはオフィスビルの重い扉を開け、令和8年の熱を帯びた夏の夜の街へと足を踏み出した。

もりながるマックの、キメ顔とビブラートが鳴り響く最高に熱い夏が、今、確かな鼓動とともに幕を開けたのである。

※本物語はフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。 参考情報元:マクドナルド公式ニュースリリース(2026年7月8日)「マックの森永スイーツ」
https://www.mcdonalds.co.jp/company/news/2026/0708a/