『日本縦断カプポの旅!フタ付パッケージを探す日』(架空で空想のショートストーリー)※画像はAIによるイメージを含みます
序章:2026年9月28日、朝のハイウェイと小さな落胆
2026年(令和8年)9月28日、月曜日。
東の空がほの暗い紫から澄んだ茜色へと移り変わる早朝、長距離大型トラックの運転手であるshimoは、幾重にも重なるロードノイズとともに高速道路を西へと走らせていた。フロントガラス越しに広がる秋の空は高く、排気ブレーキの重低音が静まり返った車内に響いている。
40代半ばを迎えたshimoにとって、長距離トラックの運転席は第二の我が家であり、孤独と向き合う城でもあった。ハンドルを握りながら、彼はチラリとダッシュボードに固定したスマートフォンの画面に目をやった。画面には、数日前からインターネット上で大きな話題となり、今朝10時にいよいよ本格稼働を迎えるひとつのニュースが表示されている。
日清食品が「カップヌードル」発売55周年を記念して始動させる、ブランド史上初の継続型ポイントプログラム——通称「カプポ(カップヌードル ポイントプログラム)」である。

「ついに今日からか……」
shimoは思わず独りごちた。深夜のパーキングエリアで、あるいは荷降ろしを待つ静寂の中で、幾度となく彼の腹を満たし、冷えた身体を温めてくれたのは、いつだってあの独特な形状のカップ麺だった。レギュラー味の香ばしい醤油とスパイスの香り、シーフードの濃密な魚介スープ、カレーのどっしりとしたコク。長年寄り添ってきた相棒に、食べた分だけポイントが貯まる新たな楽しみが加わるというのだから、ファンとして胸が高鳴らないはずがない。
スマホの画面をスクロールすると、ネット上はすでに「カプポ」の話題で持ちきりだった。
『対象商品のフタに印刷された二次元コードを読み込むだけで1ポイント入るらしい』
『毎週先着でもらえる「カップヌードル THE FORK」の右利き用と左利き用、どっちもデザインが狂ってて最高』
『謎肉オットマン欲しすぎるだろ……50ポイント貯めてMEGAランク目指すわ』
『日清牌(カップヌードル麻雀牌)ってマジかよ! 日清の企画力、相変わらず尖りすぎ!』
『ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの貸切ナイトプランまであるのか!』

熱狂するネットの反応を横目に、shimoはニヤリと笑った。長距離ドライバーである自分は、全国のコンビニやサービスエリアを利用する機会が多い。誰よりも早く対象パッケージを手に入れ、記念すべき「カプポ第1号ポイント」を自分のアカウントに刻んでやろう——そんな密かな野望が芽生えていた。
午前7時過ぎ。朝の空腹を感じたshimoは、大型トラックの巨体を滑り込ませるようにして、高速道路の大きなサービスエリア(SA)に立ち寄った。秋の冷気が肌を刺す中、キャビンを降りて敷地内の24時間営業のコンビニエンスストアへ向かう。自動ドアをくぐり、まっすぐにカップ麺コーナーへと足を向けた。

整然と並べられた「カップヌードル」の赤いロゴ。shimoは胸を躍らせながら、一番手前にあった定番のカップヌードル(レギュラー)の手にとった。そして、フタの表面を凝視した。
「……あ」
そこにあったのは、見慣れたいつものフタだった。二次元コードなど、どこにも印刷されていない。
慌てて隣の「カレー」や「シーフードヌードル」も手に取ってみる。しかし、どれも二次元コードのない旧パッケージだった。shimoの脳裏に、事前に公式サイトで確認していた注意書きのテキストが鮮明に蘇ってきた。
『※店頭でカプポ対象商品と対象外の商品が混在している可能性があります』
『※「カプポ」パッケージの商品は、9月上旬から全国で順次発売します。店頭に並ぶ時期は、地域や店舗、商品によって異なります』
「混在……そうか、まだ古い在庫が残ってるのか……」
shimoは落胆の吐息をついた。9月28日という全国解禁日を迎えたとはいえ、全国津々浦々の棚が一夜にしてすべて新パッケージに切り替わるわけではない。流通という巨大な血液の循環の中で、古いパッケージと新しいパッケージがグラデーションのように混ざり合っているのだ。
スマホを開くと、X(旧Twitter)にはすでに悲喜こもごもの声が溢れていた。
『近所のコンビニ行ったら全部旧フタだった! カプポ始まらない!』
『3軒目でついに二次元コード付きゲット! 1ポイント目ゲットだぜ!』
『カプポのフタ探す宝探しみたいになってきた』
「宝探し、か……」
shimoは苦笑いしながら、手にした旧フタのカップヌードルを商品棚に戻した。しかし、一度火がついた探究心は消えない。
「今日の目的地までに、必ず『フタ付パッケージ』を見つけてやる」
長距離トラックドライバー・shimoの、1日限りの「カプポ巡礼の旅」が、静かに幕を開けたのだった。
第1章:国道沿いの小さな商店と、すれ違う人々の景色
高速道路を降り、指定の納品先へ向かうまでの迂回路として、shimoは山あいを抜ける国道へとトラックを走らせた。大型車両の交通量が比較的少ないこの旧道には、昔ながらの街並みと、昭和の面影を残す個人商店が点在している。

午前10時。ちょうど太陽が高くなり、カプポの特設サイトが正式にオープンする時刻を迎えた。shimoは街道沿いにぽつりと佇む、古びた木製の看板を掲げた小さなよろず屋風の商店の敷地にトラックを止めた。店先にはプラスチック製のコカ・コーラのベンチが置かれ、ガラス戸の向こうには仕入れられて久しいお菓子や日用品が並んでいる。

ガラガラと引き戸を開けると、奥から腰の曲がった小柄な店主の老人が顔を出した。
「いらっしゃい。おや、大きなトラックだねぇ。お疲れ様」
「こんにちは、お邪魔します。ちょっと小腹が空いてしまって」
shimoは挨拶を交わし、店の一角にある小さな麺類コーナーへ向かった。木製の棚に、整然と、しかしどこか誇りかぶった様子でカップヌードルが数個並んでいた。手を伸ばして確認する。当然のように、二次元コードのない旧フタだった。
(やっぱりここも旧パッケージか……)
一瞬、胸の中に小さな落胆が掠めた。しかし、隣で棚の埃を愛おしそうにハンディモップで払っている老店主の姿が目に入り、shimoは己の浅はかな落胆を恥じた。
店主の老人は、毎朝6時に店を開け、来客が一人か二人しか来ない日であっても、こうして丁寧に商品を磨き上げているのだという。世間では次々と新しいポイントサービスが始まり、デジタル化や効率化が叫ばれているが、この小さな店にはこの店だけの、穏やかで誠実な時が流れていた。
「お兄さん、遠くまで荷物を運ぶんかい? 大変な仕事だねぇ。最近は道も混むでしょう」
老店主は温かいお茶のペットボトルを手に取ると、「これ、サービスだよ。気を付けて行きなさい」と微笑んだ。
「ありがとうございます。……あの、これ、いただきますね」
shimoはカプポの対象外である旧フタの「カップヌードル カレー」を手に取り、レジへ持っていった。ポイントが付くかどうかなど、この温かいやり取りに比べれば実にちっぽけなことに思えた。
店を出て、トラックの運転席に戻ったshimoは、ダッシュボードに置いたカレー味のカップを眺めた。
世の中には「得をした」「損をした」という言葉が溢れている。新パッケージを買えなかったから「損」をしたのだろうか? いや、そんなはずはない。この店で老店主と交わした一言の会話、手渡された温かいお茶のぬくもりは、どんなポイント制度でも還元できない豊かな体験だった。
人はどうしても、自分が手に入れられなかったものばかりに目を向け、他人が手にしているものを羨んでしまいがちだ。しかし、いま自分の手の中にある1個のカップヌードル カレーは、間違いなく今日という日を支えてくれる美味しい食料であり、店主の思いやりが詰まった特別な品だった。
shimoはカレーのカップを助手席のバッグに大切にしまい、再びエンジンをかけた。カプポを探す旅は、単なるグッズ集めではなく、自分自身の足元を見つめ直す旅になりつつあるのを感じていた。
第2章:山あいの自販機コーナーと、若き配送員の葛藤
昼過ぎ、トラックは県境の峠道へと差し掛かった。曲がりくねった山道を登りきった場所に、かつてドライブインとして栄えたであろう広い空き地と、プレハブ小屋の自販機コーナーがあった。
非対面で軽食が買えるレトロ自販機や、うどん・そばの自販機と並んで、一台のカップ麺自動販売機が佇んでいる。給湯用のフォークと熱湯のボタンが備え付けられた、ドライバー御用達の機械だ。
「自販機のカップヌードル……さすがにここも旧パッケージだろうな」
shimoはトラックを止め、運試しのつもりで自販機に100円玉を数枚投げ入れた。「カップヌードル シーフード」のボタンを押すと、ゴトンと重い音を立てて商品が落ちてきた。取り出し口から取り出してみると、やはり二次元コードのない従来のデザインだった。
「まあ、そうだよな」
shimoが苦笑いしていると、隣に一台の小型配送トラックが滑り込んできた。降りてきたのは、20代前半とおぼしき若い配送員の青年だった。首にタオルを巻き、肩を落としながら自販機コーナーに入ってきた彼は、shimoに軽く会釈をすると、缶コーヒーを買い、ベンチに深く腰掛けた。
青年はスマホの画面をじっと見つめながら、重い溜息をついた。その視線は、SNSのタイムラインに向けられているようだった。
「どうかしたかい? 疲れてるみたいだけど」
shimoが声をかけると、青年は少し戸惑いながらも、ぽつりぽつりと口を開いた。
「……あ、すみません。ちょっと……地元の同級生のSNSを見てて。高校の時そんなに目立たなかった奴が、東京のIT企業に就職して高級外車に乗ってたり、タワマンのパーティーの写真を上げてたりするのを見ちゃって。それに比べて俺は、毎日山道をトラックで往復して、重い荷物を運んで……自分は何をやってるんだろうなって、惨めになっちゃいまして」
青年の言葉には、他人と自分を比べ、他人の眩しい生活に心を囚われてしまっている苦しみが滲み出ていた。
shimoは自分の若い頃を思い出していた。自分もかつては、同年代の仲間がスーツを着て綺麗なオフィスで働いているのを見ては、「なんで自分だけが夜通しトラックを運転して油にまみれているんだ」と世間を妬み、自分の境遇を嘆いていた時期があった。
「なあ、お兄ちゃん」
shimoは自販機で購入したシーフードヌードルを見つめながら静かに語りかけた。
「世間じゃ、高い車に乗ってるとか、豪華な部屋に住んでるとかが『勝ち組』なんて言われたりするけどさ。本当にそうかね? お兄ちゃんが今日運んだ荷物の中には、きっと誰かが心待ちにしてた商品や、生活に必要な大切な物が入ってたはずだ。お兄ちゃんが山道を越えて荷物を届けたからこそ、どこかの家族が笑顔になってる。それって、誰にでもできることじゃないよ」
青年はハッとしたように顔を上げた。
「人はみんな、自分が持っていないものばかり欲しがって、自分がすでに手にしているもの価値に気づかないことが多い。他人の物差しで自分の人生を測ろうとするから苦しくなるんだ。人からどう見られるかじゃなくて、自分が自分の現場でどうありたいか。目の前の荷物をひとつひとつ丁寧に届ける……その仕事の中にしか、本当の誇りはないんじゃないかな」
shimoはそう言うと、手元にあった旧フタのシーフードヌードルを指さした。
「これを見てみなよ。これ、今日から始まった日清のポイントが付かない『旧パッケージ』なんだ。でもさ、お湯を注げば、最高にうまいシーフードヌードルになる。ポイントが付こうが付くまいが、この1杯がくれる美味さと温かさは何も変わらない。外側のラベルや世間の評判なんて、ただの飾りみたいなもんだよ」
青年はshimoの言葉をひとつひとつ噛みしめるように聴いていた。やがて、その瞳から迷いの色が消え、引き締まった表情へと変わっていった。
「……ありがとうございます、ドライバーさん。俺、自分の運んでる荷物に、もっと誇りを持つようにします。これから午後の配達なんです。行ってきます!」
「おう、気を付けてな!」
元気にトラックへ戻り、エンジンを吹かして去っていく青年の後ろ姿を見送りながら、shimoは深く息を吸い込んだ。人は誰しも、自分の人生という物語の真ん中で生きている。光の当たる舞台の上にいるように見える者も、陰で社会のインフラを支える者も、誰一人として代わりのきかない大切な存在なのだ。
第3章:郊外の大型スーパーと、賑やかなカプポ旋風
午後2時。トラックは目的地の都市郊外にある物流センターへ到着し、無事に荷降ろしを完了させた。予定していた業務を終え、shimoには少しの自由時間が生まれた。
「さて、ここからが本当の勝負だな」
shimoはトラックを大型駐車場のある郊外のメガスーパーマーケットへと走らせた。これだけ巨大な店舗であれば、商品の回転率も早いはずだ。カプポ対象の「フタ付パッケージ」が入荷している可能性は極めて高い。
店内に入ると、食品売り場の中央に巨大な特設コーナーが設けられていた。そこには大きな手書きのポップが掲げられている。
『祝・55周年! 日清カップヌードル ポイントプログラム「カプポ」スタート!』

『食べて貯めよう! 豪華リワードが当たる・もらえる!』
特設コーナーの周りには、驚くほど多くの買い物客が集まっていた。社会的な注目の高さがうかがえる光景だ。shimoは人垣の隙間から会話に耳を傾けた。
「ねえ見て! 毎週月曜日の19時30分に更新される先着リワードの『カップヌードル THE FORK』だって! これ、カップ麺を食べるためだけに作られた専用フォークなんだってよ! 右利き用と左利き用があるの、すごくない!?」
制服を着た高校生グループが、パンフレットを指さしながら興奮気味に話している。
「俺は具材キャラチャームが欲しいな。謎肉、たまご、ネギ、えびがついてるやつ! スマホケースにつけたら絶対ウケるって」

「私、お母さんと協力して年間累計ポイント貯めるつもり! BIGランク以上になるとガシャポンのめじるしアクセサリーとか、CLUBHAUSのゴルフグッズに応募できるようになるんでしょ? お父さんがゴルフ好きだからプレゼントしたいんだよね」
「KINGランクになればユニバーサル・スタジオ・ジャパンの貸切ナイトプランにも応募できるらしいよ! 1年かけてじっくりランクアップさせていくの、ゲームみたいで燃えるわ~」
隣では、幼い子供を連れた主婦が説明書きを真剣に読んでいた。
「へぇ、フタの裏に印字された二次元コードをスマホで読み取るだけなのね。外装フィルムをはがしてから読み込むのがポイントみたい。1食で1ポイント貯まって、1日20回まで登録できるんだ。初回登録から1年後にポイントはリセットされるけど、その年の最終ランクは翌年に引き継がれるのね。毎日のお昼ごはんに買っていこうかしら」

さらに、年配の男性が食い入るように見つめていたのは『宇宙兄弟』とのコラボ景品だった。
「小山宙哉先生の直筆サイン入りポスターに、オリジナル描きおろしデザインのアクリルフタ止めか……。これはファンにはたまらんな。孫と一緒に食べてポイントを貯めてみるか」
世間の「カプポ」に対する関心の高さと、日清食品の圧倒的な企画力、そして老若男女をワクワクさせる遊び心の深さに、shimoは改めて感銘を受けた。単なる割引やキャッシュバックといった実利的なポイント還元ではなく、「食べる体験」そのものをエンターテインメントに変えてしまう個性。これこそが、55年間にわたって愛され続けてきたカップヌードルの底力なのだ。

「よし、俺も!」
shimoは意気込んで特設コーナーの棚へと歩み寄った。しかし——。
「……うそだろ」
目の前の棚は、見事に空っぽになっていた。まさに直前にカプポ対象パッケージの箱が解体され、大勢の客によって買い求められた後だったのだ。棚の奥に残っているのは、旧パッケージの「味噌」と「担担」が数個だけだった。
「あーあ、タッチの差で売り切れちゃったか……」
一瞬、胸の中に「せっかくここまで来たのに、他の客に持っていかれて損をした」という悔しさが込み上げそうになった。しかし、shimoはすぐにその感情を打ち消した。
買い物カゴに新パッケージのカップヌードルを嬉しそうに入れ、笑顔でレジへと向かう高校生たちの姿が見えた。彼らの弾けるような笑顔を見ていると、自然とあたたかい気持ちが湧いてきた。
他人が良いものを手に入れたからといって、自分の価値が下がるわけではない。誰かの喜びを素直に「良かったな」と祝福できる心を持つことこそが、本当に豊かな生き方ではないだろうか。
shimoは微笑みを浮かべると、棚に残されていた旧パッケージの「カップヌードル 味噌」を手に取り、レジへ向かった。
「カプポのフタには出会えなかったけど、味噌味も大好きなんだよな」
助手席の「旧フタコレクション」に、またひとつ仲間が加わった。shimoの心は、不思議とどこまでも晴れやかだった。

第4章:夕暮れの港町、小さなコンビニエンスストアの奇跡
午後5時過ぎ。空はグラデーションを描く鮮やかな茜色から、次第に深い群青色へと染まり始めていた。涼やかな秋風が、港町の潮の香りを運んでくる。
今日一日、高速道路のサービスエリア、山あいの個人商店、ドライブインの自販機、そして郊外の大型スーパーと、様々な場所を巡ってきた。shimoのトラックの助手席には、各所で買い集めた旧パッケージのカップヌードルが4個並んでいる。
「結局、今日はひとつも『カプポフタ』に出会えなかったな……」
shimoは港の防波堤沿いにトラックを止め、ハンドルに肘をついた。スマホの画面を開くと、SNSにはカプポの話題が怒涛のように流れていた。
『カプポ初日、無事に5ポイント貯めた!』
『具材キャラステッカー応募したぞ! 届くのが楽しみ!』
『謎肉オットマンのために毎日カップヌードル生活スタート!』
全国のどこかで、大勢の人々が最初の1ポイントを獲得し、歓声をあげている。自分だけがその波に取り残されたような感覚が、ふと胸をかすめた。
しかし、shimoはすぐに首を振った。
「いや、違うな。俺には俺の、今日という1日があった」
古い商店の老店主との温かい交流。山道で出会った若いドライバーとの深い対話。スーパーで見た人々の弾けるような笑顔。どれもが、カプポのフタを探す旅に出なければ決して味わうことのできなかった、かけがえのない人生の1ページだった。
「よし、お腹も空いたし、夜の走りに備えて1杯食べていくか」
shimoはトラックを降り、防波堤のすぐ近くにある、港の作業員たちが利用する小さなコンビニエンスストアへ向かった。店内は静かで、夕勤の店員がひとり、静かに品出しを行っていた。
これが今日、最後の立ち寄りになるだろう。shimoは何気ない足取りで、店内奥のカップ麺コーナーへと向かった。
棚の最上段には、青いパッケージが目立つ「カップヌードル シーフードヌードル」が並んでいた。shimoは何の気なしに手を伸ばし、そのフタを見上げた。
その瞬間——shimoの動きがピタリと止まった。
「え……?」
息を呑んだ。
白地に鮮やかな青で彩られたフタの中央部。そこには、これまで巡ってきたどの店舗でも見ることのできなかった、くっきりと印字された二次元コードと、見紛うことなき文字が躍っていた。
『カップヌードル ポイントプログラム「カプポ」対象商品』
「あ……あった……!」
shimoの喉から、掠れた声が漏れた。
一日中、何十キロも走り、幾つもの店を巡り、半ば諦めかけていたその場所に、探し求めていた「フタ付パッケージ」が、静かに彼を待っていたかのように鎮座していたのだ。
それは、豪華なレアカードを見つけたような興奮とは違う、じわじわと身体の奥底から湧き上がってくるような、静かで深い感動だった。
shimoは宝物を扱うかのように丁寧にそのシーフードヌードルを手に取り、レジへと運んだ。
「お会計、254円になります」
代金を支払い、商品を受け取る。手の中に収まるその一カップが、今日一日積み重ねてきたあらゆる出来事の結び目となり、輝きを放っているように感じられた。

第5章:秋風のベンチ、1杯の湯気と灯る1ポイント
コンビニのポットで熱湯を注ぎ、プラスチックのフタ止めをしっかりとセットする。3分間のタイマーをセットし、shimoは港の防波堤沿いにある木製のベンチへと歩いた。
秋の海風が頬を撫でる。対岸の街の明かりが水面に揺れ、美しい夜景を作り出していた。
shimoはベンチに腰掛け、スマホを取り出した。まずは、二次元コードを読み取るための事前準備だ。
公式サイトの指示通り、まずはカップヌードルの外装フィルムを丁寧にはがす。透明なフィルムを剥ぎ取ると、フタの表面に印字された二次元コードがくっきりと現れた。
スマホのカメラを起動し、二次元コードにかざす。
画面が素早く反応し、ブラウザが起動して「カプポ」の特設ページへとリダイレクトされた。日清食品のアカウントでログインを完了させると、画面中央に色鮮やかな演出が弾けた。
『1ポイント獲得! カプポへようこそ!』
画面の中では、謎肉、たまご、えび、ネギといったお馴染みの具材キャラクターたちが可愛らしく跳ね回っている。
【保有応募ポイント:1pt】
【年間累計ポイント:1pt / 会員ランク:MINI】
画面に灯った「1pt」という数字を見つめながら、shimoは深く息を吐き出した。
ただの「1ポイント」である。金額に換算すればほんのわずかな価値かもしれない。しかし、朝からの道のり、出会った人々の顔、交わした言葉の数々が頭を駆け巡り、この「1」という数字が、何物にも代えがたい達成感となって胸を満たした。
ピピッ、ピピッ、とスマホのタイマーが3分経過を告げた。
shimoはフタをゆっくりとめくった。

ふわりと立ち上る、芳醇な海鮮スープと香ばしい麺の湯気。スープの表面には、鮮やかなイカ、カニカマ、たまご、そしてネギがたっぷり浮かんでいる。
割り箸を割り、麺を深く持ち上げる。そして、一気にすすった。
「つるっ……! う、うまい……!」
喉を通り抜けるしなやかな麺、ポークと魚介の旨味が凝縮されたスープが、秋風で冷えかけた身体の隅々にまで染み渡っていく。いつも食べているはずのシーフードヌードルが、今日のこの瞬間、人生で食べたどの高級料理よりも美味しく感じられた。
「最高だ……本当に、最高だ」
shimoは噛みしめるようにスープを飲み干した。
助手席に置いてある、今日買い集めた旧パッケージのカップヌードルたちのことが思い浮かんだ。カレー、シーフード、味噌。それらはポイントこそ付かなかったが、今日という素晴らしい一日を自分に引き寄せてくれた大切な相棒たちだ。明日からの航海の中で、ひとつずつ感謝を込めて味わおうと決めた。
朝出会った老店主の優しい笑顔。山道で自分の仕事に誇りを取り戻した若いドライバーの力強い瞳。スーパーでカプポの開始を無邪気に喜んでいた人々。
世の中には様々な立場の人がいて、それぞれの場所で、それぞれの悩みを抱えながら必死に生きている。誰もが誰かの引き立て役などではなく、自分だけの尊い人生の真ん中を生きているのだ。他人と自分を比べたり、目先の損得に惑わされたりする必要などどこにもない。自分が今いる場所で、自分らしく精一杯生きていくこと。それこそが、本当の幸せなのだと、この1杯のカップヌードルが教えてくれた気がした。
結章:夜のハイウェイ、明日へ続く一本の道
午後7時。すっかり夜の帳が降りた港町を後にし、shimoは再び大型トラックの運転席へと戻った。
ダッシュボードのスマホ画面には、静かに輝く「1pt」の文字。
これから1年間、このポイントプログラムは続いていく。食べた分だけポイントが貯まり、ランクが上がり、新たなリワードへの挑戦が待っている。しかし、shimoにとって重要だったのは、景品そのもの以上に、「食べた数だけ、自分が無事に一日を走り切った証が残っていく」というストーリーそのものだった。

「よし、行くか」
エンジンキーを回すと、重厚なディーゼル音とともにトラックが目覚めた。ギアを入れ、ゆっくりとアクセルを踏み込む。巨体は静かに港町を離れ、再び漆黒の高速道路へと滑り出していった。
フロントガラスの向こうには、夜のハイウェイがどこまでもまっすぐに伸びている。ヘッドライトの光が、前方の路面を白く照らし出す。
全国のどこかで、今この瞬間も、夜勤明けの工場作業員が、勉強に励む受験生が、あるいは自分と同じように夜を徹して走るドライバーが、カップヌードルにお湯を注ぎ、フタの二次元コードを読み込んでいるかもしれない。
誰もが自分の人生を必死に生き、社会という巨大な営みを支え合っている。その営みの中で、温かい1杯のカップ麺が、人々の心と身体をそっと温めているのだ。
shimoはハンドルをしっかりと握り直し、前を見つめた。
明日もまた、荷物を待つ人がいる街へ走る。自分の足で、自分のペースで、一歩一歩。
スマホに灯った最初の1ポイントとともに、shimoの明日へ続く旅は、どこまでも続いていくのだった。
(完)
このショートストーリーは、以下のサイトを参考にさせて頂きました。
https://www.nissin.com/jp/company/news/13884/
https://www.cupnoodle.jp/cupupo/?_gl=1*qo858u*_gcl_au*MTAwNDY5NDE4OS4xNzgzOTg4MjU0
