令和8年9月30日 『ミスドとアフタヌーンティーのコラボが繋ぐ親子の絆』

 

『ミスドとアフタヌーンティーのコラボが繋ぐ親子の絆』(架空で空想のショートストーリー)※画像はAIによるイメージを含みます

第1章:すれ違う秋の朝と、聞き逃さなかった小さな呟き

冷えた空気の中に残る、父と娘の距離感

2026年9月30日、水曜日。
早朝の街には、季節が一歩進んだことを知らせる澄んだ秋風が吹き抜けていた。

一軒家のキッチンで、shimoは静かにフライパンを握っていた。ジュウという爽やかな音とともに、甘い醤油と卵の香ばしい匂いが立ち上る。時計の針は午前6時30分を指していた。

shimoは、40代半ばの精密機械メーカーに勤める設計技師である。数年前に愛する妻を病気で亡くして以来、男手一つで当時幼かった一人娘のHANAを育ててきた。毎朝5時半に起き、朝食を作り、お弁当を詰め、掃除をしてから出社する生活。それがshimoにとっての当たり前の日常だった。

しかし、ここ半年ほど、家の中にはどこかピンと張り詰めたような、重苦しい沈黙が漂うことが増えていた。中学2年生になったHANAは、いわゆる反抗期の真っ只中にいた。

「HANA、ご飯できたぞ」

廊下に向かって声をかけると、しばらくしてパタパタと重い足音が響き、制服姿のHANAがダイニングに入ってきた。長い髪を後ろで一つに結び、どこかつんとした表情を浮かべている。

「おはよう、HANA。今日は肌寒いから、羽織るもの持っていきなさいよ」

「……別に大丈夫」

HANAは小さく短く答えると、shimoの正面の席に腰を下ろした。目の前に置かれた卵焼きと焼きたてのトースト、温かい紅茶には目もくれず、手にしたスマートフォンの画面をじっと見つめている。親指が機械的に画面をスワイプしていく。

shimoは胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚を覚えた。かつては「お父さん、今日ね!」と、学校での出来事を身振り手振りで楽しそうに話してくれた少女は、いまや父親と目を合わせることすら避けているように見えた。

(俺の育て方が悪いのだろうか。母親がいれば、もっと娘の気持ちに寄り添って、上手に話を聞いてあげられたのかもしれない……)

shimoの心には、常に自責の念と焦りが渦巻いていた。職場の同僚たちが「うちは娘と買い出しに行くのが週末の楽しみでね」などと嬉しそうに話すのを聞くたびに、うつむきたくなるような切なさを感じていた。

自分の器の狭さや不器用さに目がいき、どうして自分はうまく親としての役割を果たせないのだろうかと、暗いトンネルの中を彷徨うような気持ちで日々を過ごしていたのだ。

画面越しに漏れた、たった一言の本音

食卓に沈黙が流れる中、HANAの指がスクロールを止めた。スマートフォンの画面を凝視する彼女の瞳が、ほんの少しだけ大きく見開かれる。そして、吐息のような小さな声が、彼女の唇から漏れた。

「あ……ミスドとアフタヌーンティーのコラボ、めっちゃ可愛い。今日からなんだ……」

その呟きはあまりに小さく、テレビのニュース音に消されてしまいそうなほどだった。しかし、娘の吐露する言葉をひとつたりとも聞き逃すまいと神経を研ぎ澄ませていたshimoの耳には、はっきりと届いていた。

「ん? ミスド? 何か気になるものでもあったのか、HANA?」

shimoが思わず身を乗り出して尋ねると、HANAはハッと現実に戻ったような顔をし、慌ててスマートフォンを伏せた。

「……別に。ただの独り言。関係ないでしょ」

HANAは一口だけトーストをかじると、カバンを肩にかけ、立ち上がった。

「ごちそうさま。行ってきます」

「あ、ちょっと待て、HANA——」

引き止める声も虚しく、玄関のドアがパタンと閉まる音が響いた。残されたダイニングテーブルには、半分残されたトーストと、すっかり冷めてしまった紅茶。shimoは静まり返った部屋でポツンと立ち尽くし、深くため息をついた。

だが、shimoの頭の中には、先ほどHANAが口にした言葉が、鮮明な残像となって残り続けていた。

『ミスドとアフタヌーンティーのコラボ、めっちゃ可愛い』

不器用な父親の心に、小さな灯火がともった瞬間だった。

第2章:街を包む熱気と、二つのブランドが奏でる奇跡

デスクの影で調べる、限定コレクションの秘密

午前中、職場のデスクで図面に向かいながらも、shimoの意識は半分別のところにあった。パソコンの作業の合間、休憩時間になると同時に、shimoはスマートフォンを取り出し、検索ウィンドウに文字を打ち込んだ。

『ミスド アフタヌーンティー コラボ 9月30日』

画面に表示された検索結果の数々と、色彩豊かな画像を見た瞬間、shimoは思わず息をのんだ。

本日、2026年9月30日(水)。全国のアフタヌーンティー・リビング(Afternoon Tea LIVING)の店舗にて、ミスタードーナツとの初のコラボレーションアイテムが、一斉に発売開始となっていたのだった。

shimoはニュースリリースや特設ページの記事を夢中で読み進めた。そこには、二つの有名なブランドがなぜ出会い、どのような想いでこの商品を作り上げたのかが詳細に記されていた。

ミスタードーナツといえば、1970年の創業以来、半世紀以上にわたって日本全国で愛され続けてきたドーナツチェーンである。ポン・デ・リングのもちもちとした食感、オールドファッションの素朴なサクサク感、エンゼルクリームのふんわりとした甘さ、フレンチクルーラーの軽い口溶け。誰しもが幼い頃に家族や友人と囲んだ思い出の中に、あの黄色い箱と甘い香りがある。まさに日本の「日常の親しみやすさと笑顔」を象徴する存在だ。

一方のアフタヌーンティー・リビングは、「紅茶を愉しむ」というゆったりとした時間を起点に、日々の暮らしに心躍る彩りと上質な心地よさを提案するライフスタイルブランドである。丁寧につくられた生活雑貨やインテリアは、慌ただしい日常の中に「私らしい豊かな時間」を生み出してくれる。

このまったく異なる世界観を持つ二つのブランドが手を取り合った初のコラボレーション。それは、身近でカジュアルなドーナツのワクワク感と、日常を上質に仕立てるアフタヌーンティーの洗練されたデザインが融合した、これまでにない特別な試みだった。

今回の限定コレクションでは、ポン・デ・リングやオールドファッション、エンゼルクリーム、フレンチクルーラーなど、ミスドを代表する人気ドーナツ全12種類が、温かみのあるオリジナル手描きアートとして描き下ろされている。そして、そのアートが衣料品やキッチン雑貨、ステーショナリーなど、全59種類もの多彩なアイテムに落とし込まれているのだ。

さらにネットの評判を調べてみると、SNS上は朝から歓喜と興奮の声で溢れ返っていた。

『先行販売のオンラインストア、即完売で買えなかった! 店舗に走るしかない!』

『ミスドのドーナツがこんなにおしゃれな雑貨になるなんて夢みたい』

『再現度が高すぎて、見ているだけでお腹が空くし可愛すぎる』

『エコバッグが飛ぶように売れてた!』

9月28日に一部店舗やオンラインで実施された先行販売では、アクセスが集中して一瞬で在庫がなくなるほどの大反響だったという。

shimoは画面を見つめながら、拳を強く握りしめた。

(HANAは、これが欲しかったんだな……。オンラインで買えなくて、諦めていたのかもしれない)

普段、おしゃれな雑貨店など足を踏み入れたこともないshimoだったが、胸の奥から湧き上がる衝動を抑えきれなかった。

「今日は残業なしで上がらせてもらおう」

shimoは集中力を極限まで高め、午後の設計業務を驚異的なスピードで片付けていった。

第3章:アフタヌーンティーの店内で繰り広げられる、父親の小さな冒険

慣れない空間で感じる気恥ずかしさと、溢れる魅力

夕方5時過ぎ、shimoは大型ショッピングモールの中にある「アフタヌーンティー・リビング」の店舗の前に立っていた。

店内は洗練された柔らかな照明に包まれ、心地よいアロマの香りが漂っている。そして何より、店内は多くの客で賑わっていた。学校帰りの女子中高生、幼い子どもを連れた母親、仕事帰りの会社員、楽しそうにお皿を選ぶ年配の女性——様々な世代、様々な背景を持つ人たちが、輝くような笑顔で商品を手に取っていた。

作業着の上に地味なジャケットを羽織った40代半ばの男が一人で入るには、あまりにも華やかで眩しい空間だった。shimoは一瞬気圧され、入り口で足を踏み外しかけた。周囲から「あの人、何しに来たんだろう」と思われるのではないかという被害妄想が頭をよぎり、背中にじっとりと汗が滲む。

しかし、意を決して店内へと足を踏み入れた。娘のあの言葉、あの寂しげな背中を思えば、自分の恥ずかしさなど大した問題ではなかった。

コラボ商品が特設されたコーナーにたどり着くと、shimoはそのラインナップの美しさとクオリティの高さに思わず見入ってしまった。そこには、まさにHANAが夢中になるのも納得できる、魅力的な世界が広がっていた。

ディスプレイに咲き誇る、ドーナツアートの雑貨たち

棚には、写真やネットで見た通りの素晴らしいアイテムが並んでいた。

まず目に飛び込んできたのは、真っ赤なチェックの背景にふんわりとしたエンゼルクリームが描かれたミニタオル。その横には、本物のエンゼルクリームそっくりな丸くてふわふわしたダイカットポーチや、上品な陶器のマグカップ、ドーナツ型のコースターが配置されていた。

少し視線を移すと、オールドファッション(チョコファッション)がダイナミックにデザインされた鮮やかな赤のミニトートバッグと、黄色いストライプ柄のミニタオル。サクサクとした生地の質感や、かかったチョコレートのツヤまで、繊細なイラストでリアルに表現されている。

さらに、フレンチクルーラーの柔らかい質感を表現した淡いピンク色のミニトートバッグや、ピンクのチェック柄タオル。持ち手には小さなティーポットのチャームが揺れており、細部へのこだわりが伝わってくる。

ポン・デ・リングのコーナーには、温かみのあるイエローのトートバッグや、シックなブラウンストライプのミニタオル、もちもちとした形状をかたどったコースターが飾られていた。

また、シックなブラウンの生地に様々なドーナツが散りばめられたフラットポーチや巾着セット、ペンケースやスマートフォンのクリアケースなどの文房具類も充実している。インテリア用品として、ポン・デ・リングやチョコファッションの形をしたダイカットクッション(シートクッション)もあり、触ると吸い付くような心地よい弾力があった。

食卓を彩る食器類も圧巻だった。ドーナツのイラストが散りばめられたプレート(お皿)や、落ち着いたブラウンやホワイトのマグカップ、透明感あふれるグラス、そしてカフェのような雰囲気を味わえるトレー。持ち運びに便利なピンクやホワイトのドット柄ステンレスボトルや、ステンレスマグまでもが用意されている。

「すごいな……ただのキャラクターものじゃない。どれも本当に丁寧に作られている」

shimoは感心しながら商品を眺めた。ただ可愛いだけでなく、使う人の日常にそっと寄り添い、暮らしを豊かにしようとする作り手の温かい情熱が、ひとつひとつの雑貨から伝わってくるようだった。

探していた「親子の絆」の形

shimoは店内を巡りながら、HANAが喜びそうなものを探した。そして、アパレルコーナーの前で足を止めた。

そこには、今回のコラボアイテムの目玉の一つである「スウェットプルオーバー」と「エプロン」が並んでいた。

スウェットプルオーバーは、落ち着いた色合いの上質な生地で作られており、胸元には控えめながらも味わい深いドーナツのアートがプリントされている。大人が着ても決して浮くことのない、洗練されたシルエットだ。

そしてエプロンは、料理に興味を持ち始めた中学生のHANAにぴったりの、可憐で使いやすそうなデザインだった。

(これだ……!)

shimoの頭の中に、ある閃きが舞い降りた。

自分は不器用で、言葉で上手く気持ちを伝えることができない。だが、もしこのエプロンをHANAに贈り、自分もこのスウェットを着て一緒にキッチンに立てたなら。言葉を超えた何かが、伝わるのではないだろうか。

shimoは意を決して、近くにいた笑顔の爽やかな女性店員に声をかけた。

「すみません、このスウェットと、エプロンをいただけますか? それと……このエンゼルクリームのミニタオルと、ドーナツが描かれたお皿とマグカップも一緒に包んでください」

店員は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに温かい笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます! プレゼント用ですか? すごく素敵ですね。今日発売で、本当に大人気なんですよ」

「あ、はい……娘に。それと、自分用にも……」

照れくさそうに頭を掻くshimoに、店員は「きっとお嬢様、お喜びになりますよ!」と心を込めて商品を丁寧にラッピングしてくれた。

大きな紙袋を受け取ったshimoは、店を後にすると、そのままの足でショッピングモール内にある「ミスタードーナツ」の店舗へと向かった。

カウンター越しに並ぶ、出来立てのドーナツたち。ポン・デ・リング、エンゼルクリーム、チョコファッション、フレンチクルーラー。shimoはHANAの好きな種類を思い出しながら、「これを6個、箱でください」と注文した。

アフタヌーンティーの大きな紙袋と、ミスドの黄色いドーナツ箱。二つの大きな荷物を抱えたshimoは、胸の高鳴りを抑えながら、家路へと急いだ。

第4章:夕暮れのキッチンと、手作りの夕食

ガラガラと音を立てて崩れる、父の「見栄」

午後6時半。shimoが帰宅すると、家の中はまだ静まり返っていた。

shimoは急いでスーツを脱ぎ、買い求めためばかりのアフタヌーンティーの「スウェットプルオーバー」に着替えた。鏡に映る自分の姿を見る。40代の男が胸にドーナツのイラストがついたスウェットを着ている姿は、客観的に見ればどこか可笑しく、滑稽かもしれない。だが、不思議と嫌な気はしなかった。生地のやわらかな肌触りが、こわばっていた心を優しく解きほぐしてくれるようだった。

shimoはキッチンに立ち、夕食の準備を始めた。今日はHANAが好きなハンバーグと、具だくさんの豚汁を作る予定だった。

7時前、玄関の開く音がして、カバンを重そうに抱えたHANAが帰ってきた。

「ただいま……」

蚊の泣くような声で言いながら廊下を歩いてきたHANAは、ダイニングに入った瞬間、ピタリと足を止めた。

ダイニングテーブルの上には、アフタヌーンティー・リビングの大きなロゴが入ったショッピングバッグが鎮座している。そしてその横には、甘い香りを漂わせるミスタードーナツの箱。さらに、キッチンに立つ父親の背中には、見たこともないおしゃれなスウェット。

HANAの瞳が、これまでにないほど大きく見開かれた。

「……え? なに、それ……?」

shimoは照れくささを隠すように、ハンバーグの種を捏ねながら振り向いた。

「おかえり、HANA。あぁ、これか? 今朝、お前が『ミスドとアフタヌーンティーのコラボが可愛い』って言ってたろ。だから、仕事帰りに買ってきてみたんだ」

「は……!? 行ってきたの? アフタヌーンティーに? お父さんが一人で!?」

HANAの声が裏返った。反抗期になって以来、見たこともないような素の驚きと困惑が、彼女の顔に広がっている。

「ああ。お店、すごく混んでたぞ。オンラインでは即完売だったらしいな。お前、欲しかったんだろ?」

HANAは吸い寄せられるようにテーブルへと歩み寄り、おそるおそる紙袋の中を覗き込んだ。

そこから出てきたのは、丁寧にリボンがかけられた包装。HANAが慎重にリボンを解くと、中から可憐なデザインの「エプロン」、ふんわりとした「エンゼルクリームのミニタオル」、ドーナツアートが描かれた美しい「プレート(お皿)」と「マグカップ」が現れた。

「嘘……これ、お店でも売り切れそうになってたやつじゃん……」

HANAは手に取ったミニタオルをそっと頬にあてた。ふわふわとした触感と、洗練されたデザイン。彼女の瞳に、うっすらと涙が浮かぶ。

「……なんで? 私、あんなにつっけんどんに言ったのに……」

「父親だからな」

shimoは捏ね終えたハンバーグをフライパンに並べながら、ぽつりと言った。

「お前が最近、家で料理を手伝ってくれるようになったろ。だから、自分専用のエプロンがあったら嬉しいかなって思ってさ。それと……このスウェットは、俺もお揃いで着ようと思って買ってきたんだ」

HANAは父親のスウェットと、自分のエプロンを交互に見比べた。そして——

「プッ……! あはははは!」

耐えかねたように、HANAが大声で笑い出した。ここ数ヶ月、一度も聞くことのできなかった、腹の底からの笑い声だった。

「お父さん、それめちゃくちゃ似合ってない! いや、似合ってないわけじゃないけど……お父さんがドーナツのスウェット着てハンバーグ捏ねてるの、面白すぎる!」

HANAは腹を抱えて笑い、shimoもまた、自分の不格好さに苦笑いした。

「笑うなよ。俺なりに必死だったんだから」

「あはは……ごめん。でも、すごく……すごく嬉しい」

笑い涙を拭いながら言ったHANAの言葉に、キッチンの空気が一瞬で和らいでいくのが分かった。

第5章:ポン・デ・リングの輪と、広がる温もり

三角巾を巻いた笑顔と、重なる手

HANAは自室に入ることなく、プレゼントされたエプロンをその場で身につけ始めた。紐を結ぶのに少し苦戦していると、shimoが「貸してみろ」と手を貸した。

「よし、ぴったりだな」

エプロンを着けたHANAは、キッチン脇の棚から自分の三角巾を取り出し、慣れた手つきで頭にキュッと巻いた。

少し照れくさそうに、でも誇らしげに胸を張るHANA。三角巾の下から覗く彼女の表情は、どこか晴れやかで、幼い頃の面影を残した弾けるような笑顔だった。

その笑顔を見た瞬間、shimoの胸の中にあった長年の重荷が、嘘のようにスッと消え去っていくのを感じた。

(ああ、そうだったんだ……)

shimoは理解した。自分はこれまで、「父親として完璧であらねばならない」「母親がいない分、人並み以上の生活をさせてあげなければならない」と、勝手なプレッシャーを自分自身にかけ続けていた。他人の家庭や世間の「理想の家族像」と自分たちを比べ、持っていないものばかりを数えては一人で勝手に焦り、孤独になっていたのだ。

だが、娘が求めていたのは、そんな立派な父親でも、完璧な環境でもなかった。ただ自分の声に耳を傾け、同じ時間を共有し、笑い合える存在。それだけで十分だったのだ。

「お父さん、ハンバーグ焼くの、手伝うよ」

三角巾を巻いたHANAが、フライパンの横に並んだ。

「おう、頼む。じゃあ、このソースを混ぜてくれ」

ふたりで並んで立つキッチン。フライパンからジューという心地よい音が響き、香ばしい肉汁の香りが広がる。父と娘の間に、まるでミスタードーナツの「ポン・デ・リング」のような、丸く、優しく、決して解けることのない温かい輪が広(ひろ)がっていくようだった。ひとつひとつの玉が強く結びついてひとつの大きなリングを作るように、ふたりの心が確かに繋がった瞬間だった。

食卓に咲いた、特別な時間

やがて、夕食の準備が整った。

ダイニングテーブルの上には、買い求めたばかりのアフタヌーンティーのコラボプレートが並べられた。お皿には、焼きたてのジューシーなハンバーグと彩り鮮やかな野菜。そして食後のデザートとして、ミスドの黄色い箱から取り出されたポン・デ・リングとエンゼルクリームが、大切そうに盛り付けられた。

((AIによるイメージのため、実際の商品とは違います)

コラボマグカップには、温かい紅茶とミルクが注がれている。

「いただきます」

ふたりで手を合わせ、夕食が始まった。

「ハンバーグ、すごく美味しい」

「HANAが作ってくれたソースが効いてるからな」

会話が途切れることはなかった。HANAは学校での出来事や、友達との間で流行っていること、そして今回のアフタヌーンティーとミスドのコラボがどれだけSNSで話題になっているかを、身振り手振りで楽しそうに話してくれた。

「あのね、ミスドのドーナツって、誰もが食べたことあるじゃない? でも、それがアフタヌーンティーのおしゃれなお皿や雑貨になると、いつものドーナツがすごく特別なものに見えるんだよ。日常だけど、ちょっとだけ心が躍る感じ。そういうのって、すごく素敵だと思う」

HANAの言葉に、shimoは深く深く頷いた。

「そうだな。高級なレストランに行くことだけが特別なわけじゃない。身近にある親しみやすいものを、大切に、丁寧に味わうこと。それこそが、一番贅沢な時間なのかもしれないな」

shimoはマグカップを手に取り、温かい紅茶を一口飲んだ。

「HANA、俺……ずっと焦ってたんだ。母さんがいなくなってから、お前に寂しい思いをさせてるんじゃないか、他の家みたいに裕福で何でも揃っている家庭にしてあげられないんじゃないかって。自分に欠けているところばかり見て、お前にどう接していいか分からなくなってた」

HANAはドーナツをかじる手を止め、父親の目をじっと見つめた。

「お父さん……私ね、学校で友達が家族で旅行行った話とか聞くと、羨ましいなって思うこともあったよ。うちはお父さん忙しいし、お母さんもいないしって、自分は損してるのかなって思ったこともある。でもね、今日お父さんが私の何気ない一言を覚えててくれて、慣れないお店に行って、このスウェット着て帰ってきたとき、思ったの」

HANAは少し照れくさそうに笑い、続けた。

「私、すごく愛されてるんだなって。他の誰かの家と比べたり、持っていないものをねだったりする必要なんてないんだって。お父さんが毎日一生懸命ご飯作ってくれて、私を見ててくれる。それだけで、私は世界一幸せなんだよ」

その言葉は、shimoの心の一番深いところに、温かい光となって染み渡っていった。

世間の物差しや、他人との比較、損得の勘定。そんなものは、この温かな食卓の前には何の価値も持たなかった。自分たちが今、ここにいて、互いを想い合い、笑顔でドーナツを分け合っている。その現実こそが、何物にも代えがたい絶対的な幸福なのだ。

第6章:明日へと続く温かな光

皿洗いの時間と、ひとつになった心

夕食が終わり、ふたりで片付けを始めた。

HANAはキッズエプロンを着けたまま、アフタヌーンティーのコラボプレートを丁寧にスポンジで洗っている。shimoはその横で、洗われた皿をふきんで拭いていく。

「このお皿、ドーナツのイラストがすごくリアルで可愛いね。使うたびに今日のことを思い出しそう」

「ああ。これからは毎朝、このマグカップで紅茶を飲もうな」

ふたりで顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれた。

窓の外に目をやると、秋の夜空に綺麗な月が浮かんでいた。

この街のどこかで、いま同じように、今日発売されたミスドとアフタヌーンティーのコラボアイテムを手にして、笑顔を浮かべている人たちがいるだろう。仕事に疲れた会社員が、エンゼルクリームのポーチを見てほっと息をついているかもしれない。幼い子どもが、ポン・デ・リングのクッションを抱きしめて眠りについているかもしれない。あるいは、若いカップルが、ドーナツ柄のグラスで乾杯しているかもしれない。

誰もがそれぞれの場所で、それぞれの葛藤や悩みを抱えながら、精一杯自分の人生を生きている。誰一人として他人の人生の脇役などではなく、誰もが己の人生の真ん中で、泥臭く、しかし気高く生きているのだ。

そして、そうやって懸命に生きて社会を支えている名もなき人々のおかげで、今日こうして素晴らしい商品が作られ、自分たちの手元に届き、親子の絆を繋いでくれた。その社会の営み全体に対する深い感謝と敬意が、shimoの胸に込み上げてきた。

ポン・デ・リングの輪が描く未来

片付けが終わり、HANAは「お父さん、今日買ってくれたエンゼルクリームのミニタオル、明日学校に持っていってもいい?」と聞いてきた。

「もちろんだ。みんなに見せてやりなさい」

「うん! 絶対みんな『可愛い!』って言うと思うな」

嬉しそうにタオルをカバンに仕舞うHANAの背中を見つめながら、shimoは心の中で静かに誓った。

これからも、不器用で、失敗ばかりの父親かもしれない。世間から見れば、完璧な家庭ではないかもしれない。だが、他人を羨むことも、自分にないものを嘆くことも、もうしない。自分たちに与えられたこのかけがえのない日常を、一日一日、大切に愛おしんで生きていこう。自分の得意な不器用な情熱で、娘を支え続けていこう。

「お父さん、明日の朝ご飯、私が卵焼き作ろうか?」

HANAが振り返り、三角巾をはずしながら言った。

「本当か? 助かるよ。楽しみにしているな」

「うん! おやすみ、お父さん」

「おやすみ、HANA」

自室へと向かうHANAの足取りは、朝の重苦しさが嘘のように軽やかだった。

静かになったリビングで、shimoは自分の着ているコラボスウェットの胸元にそっと手を当てた。そこにあるドーナツのアートは、まるで父娘の温かな記憶をいつまでも守り続けるお守りのように、優しく佇んでいた。

2026年9月30日。秋の深まりとともに訪れた特別な一日は、父娘の心に解けることのない温かい輪を描き出し、明日という未来へ向けて、確かな光を放ち続けていた。
(完)

このショートストーリーは、以下のサイトを参考にさせて頂きました。
https://shop.afternoon-tea.net/shop/e/efeature-misterdonut/
https://www.duskin.co.jp/news/2026/pdf/260908_01.pdf