令和8年10月9日 『10月9日の告白!恋の媚薬シェイクが繋いだ二人の想い』

 

『10月9日の告白!恋の媚薬シェイクが繋いだ二人の想い』(架空で空想のショートストーリー)※画像はAIによるイメージを含みます

【プロローグ】10月9日、秋風と就活の溜息

2026年10月9日、金曜日。

街を通り抜ける風に少しだけ冬の気配が混じりはじめた夕暮れ時、秋の斜光がビル街のガラス窓に反射して黄昏色に輝いていた。

大学3年生のHANAは、駅前のペデストリアンデッキのベンチにぽつんと座り、スマートフォンの画面をじっと見つめていた。画面に表示されているのは、本日16時に届いた1通のメールだ。

『慎重に選考を重ねました結果、誠に残念ではございますが……』

見慣れてしまった、けれど何度目にしても胸の奥がぎゅっと締め付けられる定型文。第一志望だったデザイン系の企画面接の不採用通知だった。

「また、だめだったか……」

HANAは小さく息を吐き出し、スマートフォンの画面を閉じた。

そのまま何気なくSNSを開くと、タイムラインには同級生たちの華やかな投稿が並んでいた。大手IT企業からの内定獲得を報告する華やかな写真、海外旅行の計画を楽しそうに語り合う言葉、誰もが自分の進むべき道を堂々と歩んでいるように見える。

SNSのタイムラインを見つめていると、自分だけが世界のすみっこに取り残されているような錯覚に襲われる。

クラスやサークルで目立つタイプではなかった。大勢の前で流暢にプレゼンテーションをするのも得意ではない。自分の良さと言えば、小さなカットイラストをコツコツ描くのが好きなことや、人の話をじっくり聞くことくらいだ。

けれど、就職活動という効率や要領の良さが問われる大きな波の中では、そんな「じっくり型」の性格はまるで何の役にも立たないように思えていた。

「私って、何のために頑張ってるんだろう……」

自分の持っていない要領の良さや華やかさを他人に見ては羨み、落ち込んでしまう。そんな自分自身の小ささに嫌気がさして、HANAはスマートフォンを鞄の底へと押し込んだ。

冷えてきた空気が頬を撫でる。何か温かいものか、あるいは心を甘く解きほぐしてくれるものが欲しい。そう思いながらトボトボと歩き出したHANAの視界に、鮮やかなピンクとブルーのロゴマークが飛び込んできた。

サーティワン アイスクリームの店舗だった。

ガラス越しの店内は、温かなオレンジ色の照明で満たされており、学校帰りの学生や買い出し途中の親子連れが笑顔で注文を待っている。

HANAは吸い寄せられるように、ガラス扉を押して店内に足を踏み入れた。

【第1章】自分へのご褒美——780円の「甘い投資」とサーティワンのカウンター

店内に入ると、甘く香ばしいワッフルコーンの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。

いつもならレギュラーシングルのカップを注文して静かに味わうのがHANAの定番だったが、今日ばかりは目線が全く違うポスターに引きつけられた。

レジの脇、一際目立つ特設POPに飾られていたのは、目を見張るほど華やかなピンク色のドリンクの写真だった。

『GRAND SHAKE スウィート ラブポーション サーティワンシェイク』

「10月9日解禁……?」

HANAは思わずその鮮やかなビジュアルに見入った。

ベースになっているのは、あの「ラブポーションサーティワン」。サーティワンの「フレーバー総選挙2026」で見事通算3回目の第1位に輝いた、まさに圧倒的人気を誇る伝説的なフレーバーだ。ラズベリーとホワイトチョコ風味の味わいにハート型菓子が隠された、「恋の媚薬」という名を持つアイスクリーム。

その殿堂入りフレーバーを贅沢に使用し、お店で牛乳と特製ラズベリーソースをミックスして作る特製シェイクなのだという。

グラスの上には、たっぷりのホイップクリームが絞られ、その上から艶やかな特製ラズベリーソースがとろりとかけられている。さらにスライスされたホワイトチョコと、コロコロとした可愛らしいミニハートチョコが惜しげもなく散りばめられていた。

ポスターの下部に書かれた価格に目が留まる。

『税込780円』

「780円かぁ……」

大学生のHANAにとって、ワンコインを超えるドリンクは少しだけ勇気が要る金額だった。「普通のシングルカップならもっと安く済むのに」「780円出したら、明日のランチ代になっちゃうかな」という小さな葛藤が頭をよぎる。効率や損得を気にする癖が、ここでも顔を出したのだ。

しかし、今日という日は、不採用通知を受け取って心が押し潰されそうな金曜日だ。

このままトボトボと家に帰って暗い気持ちで夜を迎えるくらいなら、自分を励ますために最高のご褒美を贈ってあげてもいいのではないか。

手元のスマートフォンを取り出し、なにげなくSNSで検索してみると、すでに発売初日の午後からネット上は大盛り上がりを見せていた。

『今日の仕事終わりにサーティワン直行してGRAND SHAKE買ってきた!ビジュが神すぎる……!』

『ラブポのシェイク化とか最高かよ。ホワイトチョコの甘みとラズベリーの酸味が絶妙で、疲れが一気に吹き飛ぶ!』

『780円でこのリッチ感はヤバい。自分への最高のご褒美になった!』

『ミニハートチョコが乗ってて見た目もめちゃくちゃ映える!恋の媚薬飲んで勇気出すぞ〜』

画面に踊るたくさんの肯定的な口コミや写真を見て、HANAの心は決まった。

他人がどう思うかではなく、今の自分が本当に欲しているものを自分にあげる。これは損得の計算ではなく、傷ついた自分の心を救うための大切な「投資」なのだ。

「ご注文、お決まりですか?」

店員さんが明るい笑顔で声をかけてくれた。

「あ、はい!『GRAND SHAKE スウィート ラブポーション サーティワンシェイク』をひとつ、イートインでお願いします!」

はっきりと口に出して注文した瞬間、胸の奥に溜まっていた暗いモヤが、ほんの少しだけ晴れたような気がした。

【第2章】カウンターでの予期せぬ再会——SENAとの偶然

注文を済ませ、店員さんがシェイクを作り始める様子をカウンター越しに眺めていたときだった。

「あれ? HANA……?」

不意に横から、聞き覚えのある少し低めで心地よい声が聞こえた。

振り返ると、そこにはグレーのパーカーに黒のリュックを背負った背の高い青年が立っていた。同じ大学のゼミ生であり、HANAが密かに胸を躍らせていた友人、SENAだった。

「SENA……!? どうしてここに?」

「どうしてって、アイス買いに来たんだよ。バイトのシフトがちょうど終わってさ。……っていうか、HANAが頼んだのって、もしかして今日からの限定のやつ?」

SENAはカウンターの奥で店員さんがミキサーを回し、鮮やかなピンク色のシェイクを作り上げている様子を覗き込みながら、親しみやすい笑顔を浮かべた。

「うん!『GRAND SHAKE』の新作。今日から発売なんだよ」

「へえ、すごい華やかだな! ミニハートチョコとか乗ってるじゃん。写真で見て気になってたんだよね。それ、めちゃくちゃ旨そう」

SENAは素直に感嘆の声を漏らした。

HANAとSENAは、大学のゼミで同じグループになって以来、時折課題の相談をしたり講義の合間に雑談を交わしたりする間柄だった。周囲を和ませる明るさを持つSENAは、学内でも友人・知人が多く、誰からも慕われている。

一方で、HANAは自分とSENAの間にどこか距離を感じていた。

SENAは実家が老舗の和菓子店を営んでおり、幼い頃から職人の手仕事や伝統に触れて育ったという。自分とは違って「確固たる自分の軸」を持っているように見え、どこか遠い存在に思えていたのだ。

「SENAも何か飲むの? アイス食べる?」

「うーん、俺もそれと同じ『GRAND SHAKE』にしようかな! ちょうど甘いものが欲しかったし、そんなすごい限定品見せられたら頼むしかないでしょ」

そう言ってSENAは財布を取り出し、迷いなく同じ『GRAND SHAKE スウィート ラブポーション サーティワンシェイク』を注文した。

「お待たせいたしました。『GRAND SHAKE スウィート ラブポーション サーティワンシェイク』です!」

店員さんから受け取った二つのグラスシェイクは、店内照明を受けてきらきらと輝いていた。

背の高いクリアカップの中に満たされた鮮やかなピンク色のシェイク。その上には、まるで雲のようにふんわりと絞られた白いホイップクリーム。そこへとろりと流れる鮮紅のラズベリーソースと、薄く削られたスライスホワイトチョコ、そして可愛らしい小さなピンクのミニハートチョコが散りばめられている。

まさに「恋の媚薬」というフレーバーのコンセプトにふさわしい、芸術品のようなビジュアルだった。

「うわぁ……写真で見るよりずっと綺麗……」

「本当だ、すごいなこれ。よし、せっかくだから奥の席で一緒に飲もうぜ」

SENAに促され、HANAは少し緊張しながら店内奥のふたり掛けのテーブル席へと向かった。

【第3章】ピンクのシェイクと「GRAND SHAKE」の奥深い魅力

テーブルにつくと、甘く甘酸っぱい華やかな香りがふたりの間に漂った。

「じゃあ、いただきます!」

ストローを差し込み、一口吸い込んでみる。

その瞬間、HANAの口の中に広がる味わいの層に、思わず目が丸くなった。

「……おいしい……っ!」

最初に口の中に飛び込んできたのは、ホワイトチョコ風味のアイスクリームがもたらす、まろやかでコク深い甘みだった。しかし、間髪入れずに特製ラズベリーソースのキュンと甘酸っぱいフルーティーな酸味が追いかけてきて、濃厚な甘さを爽やかに引き締めてくれる。

シェイクの滑らかな口当たりの中に、時折「ラブポーションサーティワン」特有のハート型菓子のつぶつぶ感や、トッピングされたスライスホワイトチョコのパリッとした食感が心地よいアクセントとして加わる。

「うまっ……! これ、めちゃくちゃ旨いな!」

SENAもストローから目を丸くして感嘆の声を上げた。

「ただ甘いだけじゃなくて、ラズベリーの酸味がすごく効いてる。このホワイトチョコの濃厚さとのバランスが絶妙すぎるよ。ホイップクリームと混ぜて飲むと、また味がクリーミーになって変化するし」

「うん! あと、このミニハートチョコがすごく可愛いよね。見た目が華やかだと、一口飲むたびに気分が上がる気がする」

HANAが笑顔で答えると、SENAはテーブルの脇に置かれたメニューリーフレットを手に取った。

「へえ、これって『GRAND SHAKE』っていうプレミアムラインなんだね」

「グランシェイク……?」

「そう。2024年に誕生したシリーズらしくてさ。サーティワン自慢のアイスクリームを贅沢に使って、その商品のためだけに特別に開発したオリジナルレシピで作るプレミアムなシェイクなんだって。だからただアイスを溶かしただけじゃなくて、素材の組み合わせやトッピングまで徹底的に計算されてるんだよ」

「へえぇ……! だからこんなに味に深みがあるんだね」

「しかも、ベースになってるラブポーションサーティワンって、『フレーバー総選挙2026』で通算3回目の1位になったんだってさ。圧倒的一番人気のアイスを、さらに特別なシェイクに仕立てるっていう企画自体がすごく贅沢だよな」

SENAの説明を聞きながら、HANAは改めて手元のシェイクを見つめた。

ただ喉を潤すための飲み物ではない。商品に関わる開発者たちが「食べる人を笑顔にしたい」「特別な気分を味わってほしい」という情熱を込めて作り上げた、ひとつの作品なのだ。

780円という価格には、質の高い素材と、工夫を凝らしたレシピ、そして手にした人に「特別で豊かな時間」を提供するという価値が詰まっている。

「こうやって丁寧に作られたものを味わってると、なんだか背中を押される気がするな」とHANAが呟くと、SENAは静かにストローを置き、HANAの顔をじっと見つめた。

「HANA……もしかして今日、何かあった?」

【第4章】交差する視線とそれぞれの葛藤——格差、羨望、そして自分らしさ

不意をつかれ、HANAはドキリとした。

隠していたつもりの疲労や落胆が、表情に出てしまっていたのだろうか。

「えっ、ううん……なんでもないよ?」

「うそだ。HANA、落ち込んでるときって、一口食べてホッとしたあとに、少しだけ遠くを見る目をするだろ。ゼミの課題が大変だったときもそうだった」

いつも自分のことなど見ていないと思っていたSENAが、そんな細かな仕草まで覚えていてくれたことに、HANAの胸は温かいような、気恥ずかしいような複雑な感情で満たされた。

HANAは小さく息を吸い込み、グラスの底に沈むラズベリーソースをストローで優しく混ぜながら、ぽつりぽつりと話し始めた。

「……実はね、今日、一番行きたかった会社の最終面接の落ちた通知が届いたの」

「そうだったんだ……」

「うん。今年の春からずっと就職活動を頑張ってきたけど、全然うまくいかなくて。周りの友達はどんどん内定をもらって、SNSで楽しそうにしてるのを見ると……自分だけが社会から『いらない』って言われてるみたいな気がしちゃって。私って、要領も悪いし、人に誇れるような特別な実績もないから……」

一度口に出してしまうと、胸の奥に溜まっていた感情が溢れ出して止まらなくなった。

「みんなみたいに社交的で、自分の実績をアピールするのが得意な人が羨ましい。どうして自分はこんなに不器用なんだろうって、人と比べては落ち込んで……損とか得とか、そんなことばかり考えて自分のちっぽけさに嫌気がさしてたんだ」

HANAは伏し目がちに呟いた。

そんなHANAの言葉を、SENAは遮ることなく、静かに耳を傾けていた。

やがて、SENAはゆっくりとシェイクのカップを回しながら、静かな声で語り始めた。

「HANA、実は俺もさ……最近ずっと悩んでたんだ」

「SENAが……? 悩んでるなんて、全然見えなかった」

「だろ? 俺って周りからは『要領が良くて、苦労を知らない奴』みたいに見られがちなんだよ。でもさ、うちの実家って伝統のある和菓子屋だろ? 小さい頃から『跡継ぎ』としての期待を背負わされてきてさ。大学に入ってからも、自分の本当の気持ちより、周りからどう見られるか、親や親戚を失望させないかばかり気にして生きてきたんだ」

SENAの瞳に、普段の明るさとは違う、深く静かな陰影が宿っていた。

「就活でもさ、有名企業や大手商社から内定をもらうことが『勝ち』なんだって周りの空気に流されて、手当たり次第に受けてた。でも、面接で『あなたが本当にやりたいことは何ですか?』って聞かれるたびに、言葉が詰まるんだ。世間が良いと言ってるものを追いかけてるだけで、自分自身の本当の望みが何なのか、全然分かってなかったんだよ」

SENAは苦笑いを浮かべ、シェイクの上のホイップクリームを少しだけすくって口に運んだ。

「世間一般の『成功』とか『ハイスペック』っていう基準に自分を合わせようとすると、どうしても自分に足りないものばかりが目につくんだよね。あの人は親の代からの資産があっていいなとか、あの人は生まれつきコミュ力が高くて羨ましいなとか……他人の持ってる資質や環境を羨んでばかりで、自分がすでに持ってるものや、本当に好きなことに目がいかなくなっちゃう」

SENAの言葉は、まるでHANA自身の心を映し出しているようだった。

人は誰もが出生や生まれ育った環境、持っている資質が異なる。最初からまったく同じ条件でスタートするわけではない。

それにもかかわらず、世間やSNSが提示する「分かりやすい幸せの基準」や「優秀さの尺度」をそのまま鵜呑みにし、他人が持っていて自分にはないものばかりを探しては葛藤してしまう。

「でもさ」とSENAは続けた。

「HANAのゼミでの仕事ぶりを、俺は昔からずっと尊敬してたんだよ」

「え……私の仕事ぶり……?」

「うん。HANAは派手なプレゼンで目立つタイプじゃないかもしれないけど、チームの資料を作るとき、誰も気づかないような細かい誤字やデザインの崩れを丁寧に直してくれたり、意見が言えない後輩の話をじっくり聞いてまとめてくれたりしただろ? あの誠実さと、人の気持ちに寄り添う優しさは、誰にでも真似できるものじゃないよ。俺には絶対ない、HANAだけの素晴らしい資質なんだ」

SENAの直球の言葉に、HANAの心臓が跳ね上がった。

自分自身では「不器用で目立たない短所」だと思っていた部分を、SENAは「誰もが持っているわけではない大切な資質」として認めてくれていたのだ。

【第5章】「スウィート ラブポーション」がくれた勇気——10月9日の告白

店内には、懐かしい洋楽のBGMが静かに流れていた。

カウンターでは、新たにやってきた会社員風の男性が、疲れた表情を緩めながら「GRAND SHAKE」を注文しているのが見えた。

誰もがそれぞれの日常の中で、迷い、傷つき、それでも自分なりの歩みで必死に生きている。

他人の人生の基準と自分の人生を比べて勝ち負けを競う必要なんて、最初からどこにもなかったのだ。世間がどう評価するかではなく、自分がどう生きたいか。自分に与えられた個性を愛し、できることを精一杯磨いていくことこそが、豊かな時間を紡ぎ出す鍵なのだと、HANAは胸の奥で深く納得していた。

グラスの中のシェイクは、少しずつ溶けてホイップクリームと特製ラズベリーソースが溶け合い、よりまろやかなピンク色へと変化していた。

一口飲むと、ホワイトチョコの濃厚な甘みと、ラズベリーのキュンとする甘酸っぱさが、HANAの体温と混ざり合って温かく広がっていく。

「恋の媚薬」という言葉が、頭をよぎる。

(今、言わなきゃ……きっとずっと言えないままになっちゃう)

HANAは両手で冷たいグラスをしっかりと包み込み、深く息を吸い込んだ。

不採用通知をもらって傷ついていた心に、この甘く甘酸っぱいシェイクと、SENAの温かい言葉が、小さな、けれど確かな勇気を注入してくれたのだ。

「……SENA」

「ん? なに?」

「私ね……今日、落ち込んでここに来たとき、自分のことがすごく嫌いだったの。でも、SENAと話して、このシェイクを飲んで……自分が持ってる小さなことでも、大切にしていけばいいんだって思えた」

「うん。絶対そうだよ」

「だからね……ずっと言えなかった秘密を、ひとつだけ打ち明けてもいい?」

SENAは少し不思議そうな顔をして、HANAの目をじっと見つめ返した。

「秘密?」

「うん。私……ずっと前から、SENAのことが好きだったの」

言葉が空気中に解き放たれた瞬間、周囲の音がすっと遠のいたように感じられた。

HANAの頬は、手元にあるシェイクのピンク色よりも赤く染まっていた。

「ゼミでみんなのために一生懸命動いてるときも、自分の悩みを抱えながらも周りに優しくしてるときも……ずっとSENAの誠実なところが好きだったの。就職活動で自分のことばかりになっちゃってて、こんなこと言うタイミングじゃないかもしれないけど……でも、今日、SENAに会えて、本当の言葉をもらえて……この気持ちを伝えないまま逃げたくなかったの」

HANAは一気に吐き出し、ギュッと目を瞑った。

心臓が破裂しそうなくらい激しく打っている。振られるかもしれない、気まずくなるかもしれないという怖さが押し寄せる。

けれど、返ってきたのは、沈黙のあとの静かな吐息と、温かな笑い声だった。

「……ハハッ、なんだよそれ」

HANAが恐る恐る目を開けると、そこには顔を真っ赤にしたSENAが、照れくさそうに頭を掻いている姿があった。

「SENA……?」

「いやさ……ずるいよ、HANA。『恋の媚薬』なんてシェイク飲んでる時にそんなこと言われたら、参っちゃうだろ」

「え……?」

SENAは真っ直ぐにHANAの目を見つめ返した。その瞳には、隠しきれない愛おしさと温かな光が宿っていた。

「実はね、俺もなんだよ。ゼミでいつも控えめだけど、誰よりも真剣に人と向き合うHANAのことが、ずっと気になってた。実家のことや将来のことで自信が持てなくて、かっこいいところ見せられるようになってから伝えようと思ってたんだけど……先を越されちゃったな」

「えっ……本当に……?」

「本当だよ。世間体とか、周りからの見え方ばかり気にしてた俺に、そのままの自分を信じる強さをくれたのは、HANAなんだよ」

SENAは優しく微笑むと、自分のカップをHANAのカップにぽんと軽く重ねた。

「10月9日。今日という日を、俺たちの特別な日にしようか」

カップが重なる小さな音が、まるで新しい物語の始まりを告げるベルのように、二人の心に心地よく響き渡った。

【第6章】今後の世の中に希望を寄せて——完結と展開

すっかり日の暮れた街へ、ふたりはサーティワンの店舗を出て歩き出した。

10月の夜風は冷たかったが、繋いだ手のひらと、お腹の底に残るホワイトチョコとラズベリーの優しい甘さが、二人を芯から温めてくれていた。

街の街灯の下を、様々な人々が通り過ぎていく。

仕事帰りに疲れた足取りで歩く会社員、塾帰りに楽しそうに話す中学生、手をつないで散歩する老夫婦。

誰もが人には見せない葛藤や悩みを抱えながらも、自分だけの人生を必死に生きている。誰一人として他人の人生の脇役などではなく、誰もが自分自身の歩みの真ん中に立っているのだ。

「ねえ、SENA」

「ん?」

「私、もう一度だけ、デザインの仕事ができる小さな制作会社の選考を受けてみる。有名企業じゃなくても、自分の手で誰かの心を温められるような仕事をしたいから」

「いいね。俺も、実家の和菓子屋の伝統をただ引き継ぐだけじゃなくて、新しい挑戦ができるように、もう一度自分のやりたいことと向き合ってみるよ。今度、HANAにうちの新作の和菓子、一番に試食してほしいな」

「ふふ、絶対食べる!」

ふたりは顔を見合わせて笑い合った。

他人の成功を妬んだり、持っていないものを数えて嘆いたりする日々は、もう終わりだ。

与えられた自分の環境や個性を素直に受け入れ、他人の歩みを尊敬し、社会の中で自分が役割を果たしていく。その先にある小さな変化こそが、本当の幸せなのだから。

「あ、そうだ! 今日のあのシェイク、すっごく美味しかったから、SNSに投稿しておこうかな」とHANAがスマートフォンを取り出した。

「お、いいね。『#GRANDSHAKE』『#スウィートラブポーション』で? 俺も投稿しよ。『恋の媚薬の効果は絶大でした』って」

「ちょっと! SENA、変なこと書かないでよ!」

「ははは、嘘だよ。でも、本当に最高の780円の使い方だったな」

街の煌めく明かりの中を、ふたりの影が寄り添いながら伸びていく。

2026年10月9日。

贅沢なピンクのシェイクが繋いだ小さな勇気と解き放たれた二人の想いは、秋の夜空の下で、未来へ向かってあたたかく輝き続けていた。


(完)

このショートストーリーは、以下のサイトを参考にさせて頂きました。
https://www.br31.jp/contents/topics/261009_02.html
https://www.br31.jp/contents/company/pressrelease/pdf/r261006.pdf