令和8年10月21日 『10月21日、松のや倍量フェアで勘違いした男の悲劇』

 

『10月21日、松のや倍量フェアで勘違いした男の悲劇』(架空で空想のショートストーリー)※画像はAIによるイメージを含みます

第1章:秋の午後に舞い降りた、甘い勘違いの序章

2026年(令和8年)10月21日、水曜日の午後。
東京の空は、どこまでも高く澄み渡った秋晴れだった。吹き抜ける風にはわずかに冷たさが混じり、街路樹の葉がカサカサと乾いた音を立てて揺れている。世間はまさに「食欲の秋」の真っ只中であった。

ここに、ひとりの男がいる。名は shimo。 年齢は三十代半ば、うだつの上がらない営業職。日々のノルマや理不尽な上司の小言に揉まれながらも、彼の根底にある気質は、驚くほど、いや、救いようがないほど「ポジティブ」だった。

どれほど仕事で失敗しても、「まあ、俺のポテンシャルが発揮されるのは明日からだから!」と、夜にはすっかり忘れてビールのプルトップを引っ張る男である。そんなshimoにとって、人生のささやかな楽しみといえば、美味いメシ、とりわけ揚げ物だった。

その日の昼下がり、会社に戻る途中のスマホの画面を眺めながら、shimoの足音は自然と弾んでいた。SNS(旧Twitter)を開けば、タイムラインはとある話題で持ちきりになっていた。

『おい、松のやがまた狂ったぞ……!』

『待ってました! 本日10月21日の15時から「倍量フェア」開始だって!』

『ロースかつ盛合せ定食の惣菜が、お値段そのままで2倍になるとかマジかよ。神か、松のやは神なのか』

『唐揚げが6個、カキフライが4個、海老フライが2尾、アジフライが2枚……。これは全男の胃袋を征服しに来ている』

ネットの掲示板やX(旧Twitter)のトレンドには、全国のとんかつファンからの歓喜の雄叫びが溢れ返っていた。

「ふっふっふ……。松のやめ、相変わらず斜め上の爆弾をブッ込んでくるぜ」

shimoはひとり、歩きながらニヤニヤと頬を緩ませた。松のやといえば、高品質なとんかつを手頃な価格で提供し、しかも一部店舗では店内の定食を注文すると「何杯でもライスおかわり無料」という、大食漢の聖地とも呼べる存在だ。

その松のやが、10月21日の15時という絶妙な時間から、秋のガッツリ大本命として「倍量フェア」を開催するというのだから、アンテナの高い(あるいは食い意地が張っている)shimoが反応しないわけがなかった。

しかし、この日のshimoは、いつもとは少し違っていた。 心のどこかに、乾いた砂漠の水たまりのような「満たされない飢え」があったのだ。先週、長年片思いしていた同僚の女性から「ごめんなさい、私、社内に気になる人がいるの」と、見事に玉砕したばかりだった。

その傷口はまだ完全に塞がってはいない。だからこそ、人間の脳というものは防衛本能からか、「誰かに愛されたい」「自分を選んでほしい」という承認欲求を、別のエネルギーに変換しようとする。

「……もしかしたら、俺の人生にも、そろそろ『秋のモテ期』が到来するんじゃないか?」

そんな、微塵も根拠のない、しかし本人にとっては切実な予感が、shimoの胸の内で静かに、しかし確実に膨らみ始めていたのである。

第2章:10月21日15時、決戦の舞台「松のや」へ

時計の針はちょうど15時を少し回ったところだった。 「倍量フェア」の口火が切られるまさにその瞬間、shimoは最寄りの「松のや」の自動ドアをくぐり抜けた。店内に足を踏み入れた瞬間、香ばしい油の匂いと、揚げたての衣が発する極上のアロマが、彼の嗅覚を心地よく殴りつけた。

券売機の前に立ち、shimoは画面を凝視した。 今回のフェアのラインナップは、まさに圧巻の一言だった。 対象となるのは、大人気の「ロースかつ」または「超厚切りリブロースかつ」に、多彩な惣菜を組み合わせた盛合せ定食の数々。

  • ロースかつ&カキフライ(2個)定食:1,030円 → お値段そのまま、カキフライ(4個)定食へ!

  • 超厚切りリブロースかつ&カキフライ(2個)定食:1,290円 → お値段そのまま、カキフライ(4個)定食へ!

  • ロースかつ&アジフライ(1枚)定食:1,030円 → お値段そのまま、アジフライ(2枚)定食へ!

  • 超厚切りリブロースかつ&アジフライ(1枚)定食:1,290円 → お値段そのまま、アジフライ (2枚) 定食へ!

  • ロースかつ&海老フライ(1尾)定食:970円 → お値段そのまま、海老フライ(2尾)定食へ!

  • 超厚切りリブロースかつ&海老フライ(1尾)定食:1,250円 → お値段そのまま、海老フライ(2尾)定食へ!

  • ロースかつ&本格唐揚げ(3個)定食:990円 → お値段そのまま、本格唐揚げ(6個)定食へ!

  • 超厚切りリブロースかつ&本格唐揚げ(3個)定食:1,350円 → お値段そのまま、本格唐揚げ(6個)定食へ!
    (※価格はすべて税込。店内・お持ち帰り同一価格。お持ち帰りも可能だが、みそ汁は別途料金。また株主優待券は利用不可、などの細かいレギュレーションもしっかりと頭にインプットされている)

「ぐぬぬ……どれもこれも、価格そのままでボリュームが倍になるなんて、企業努力の化身かよ……!」 唐揚げが3個から6個に跳ね上がり、カキフライが2個から4個になり、アジフライが2枚になり、海老フライが2尾になる。どれを選んでもハズレがない。しかし、今日の気分は海老だった。プリプリとした身をタルタルソースに絡めて頬張りたい。

shimoは迷わず、「ロースかつ&海老フライ(1尾)定食」のボタンを強く押し込んだ。価格は970円。これがフェアの恩恵によって、海老フライが「2尾」に化けるのだ。 食券を手に取り、カウンター席の端っこに腰を下ろす。

ふと、厨房の窓口を見ると、そこには数名のスタッフが慌ただしく動いていた。その中に、真新しい制服を身にまとった若い女性アルバイトの姿があった。どこかあどけなさが残る顔立ちだが、きびきびとした動きでオーダーをさばいている。彼女がこちらをチラリと一瞥したように、shimoの勘違いアンテナがピクリと反応した。

「……今の視線、なんだっただろ。もしかして、俺の顔に何かついてる? いや、違うな。あれは……『あ、さっきからずっと私のこと見てる、カッコいい人だな』的な視線だったのでは……?」

失恋の痛手を負ったばかりの男の脳内では、すでに都合の良いシナリオの構築が始まっていた。人は傷ついたときほど、自分を肯定してくれる「幻の光」を求めてしまう生き物なのだ。

第3章:運命の着膳――海老フライが2尾ある奇跡と、暴走する脳内ロマンス

「お待たせいたしました。『ロースかつ&海老フライ定食』のお客様、お番号34番の方――!」

厨房から元気な声が響いた。 「はいっ!」 shimoは自分の番号札を掲げ、カウンターへと駆け寄った。 トレーの上には、黄金色に輝くロースかつと、その脇に寄り添うように鎮座するフライの山。そして、丼に山盛りの白米、温かいみそ汁、千切りキャベツが美しくレイアウトされていた。

席に戻り、shimoはトレーの上の主役に視線を落とした。 ――その瞬間、彼の心臓は激しく跳ね上がった。

「な……っ!?」

そこにあるはずの海老フライは、1尾ではない。 紛れもなく、2尾の立派な海老フライが、サクサクの衣を纏って誇らしげに並び立っていたのだ。

通常であれば、「あぁ、これが松のやの倍量フェアの威力か。すげえな」と納得して箸をつけるところである。しかし、失恋のショックと「俺はモテたい」という強烈な願望が化学反応を起こしていたshimoの脳内では、まったく異なる壮大なドラマが上映されていた。

(待て、待て待て待て……!) shimoの脳内会議が緊急招集される。 (通常、この定食は海老フライ1尾のはずだ。それなのに、なぜ、俺の皿には2尾乗っているのか? ましてや、俺が席についたとき、さっきのあの可愛いアルバイトの子が俺の顔をじっと見ていた……。つまり、こういうことだ!)

shimoの妄想は、音速を超えて加速していく。

(彼女は、俺が券売機でこのメニューを選ぶのをこっそり見つめていた。『あ、あの優しそうな常連さん(勝手に常連にされている)、今日も来てくれたんだ。よし、今日の新しいフェアの初日だし、私の特権で、海老フライをこっそりもう1尾、サービスしちゃお……♡ だって、私の気持ち、気づいてほしいもん……』そう思って、厨房の奥でこっそり料理長にウインクして、2尾に増やさせたに違いない……ッ!)

客観的に見れば、店のマニュアル通りにフェアの調理をしただけである。しかし、恋に恋する(あるいは飢えている)男の主観において、それはもはや「究極の愛の告白」と同義だった。

「やるじゃないか……可愛い顔をして、大胆なアプローチをするもんだぜ」

shimoは心の中でニヤリと笑い、箸を持った手がわずかに震えた。 ふと、カウンターの向こうを見ると、先ほどの女性店員がちょうどこちらに視線を向けた気がした。

ここで引くわけにはいかない。男・shimoとしてのプライド、そして「俺は君の好意にちゃんと気づいているよ」というメッセージを伝えるため、shimoは思い切った行動に出た。

彼は、山盛りの白米(もちろん、松のや自慢の「何杯でもライスおかわり無料」の恩恵を受ける気満々である)を一口かっ込むと、その女性店員に向けて、ウィンクをひとつ、ビシッと飛ばしてみせたのである。

――店内に、まるで時が止まったかのような静寂が訪れた(ような気がした)。

第4章:ウインクの代償と、冷徹なる現実のテイクオフ

shimoが放った渾身のウインク。 しかし、その直後の展開は、彼のロマンチックな脳内シナリオとは180度異なる方向へと転がり落ちていった。

遠くの席でその一部始終を目撃したのだろうか、隣の客が「ん?」という顔でこちらを凝視している。 そして何より、視線の先の女性店員――アルバイトの彼女の表情が、みるみるうちに凍りついていくのが分かった。

(あれ……? 照れてる? 恥ずかしくなっちゃったかな?) そんな呑気なことを考えているshimoの背中に、冷たい足音が近づいてきた。トコトコトコ……と、確かな殺気(あるいは困惑)を纏った足音だ。

「あの……お客様」

声の主は、まさにその女性店員だった。彼女はトレーを拭くふきんを手に持ち、しかしその目は完全に据わっていた。いわゆる、「接客業の限界を超えた素の目」である。

「はいっ! 美味しくいただいてますよ、海老フライも2尾で最高です!」 shimoは満面の笑みで答えた。営業職で鍛えた愛想笑いだ。

しかし、女性店員は少しも動じず、むしろ冷ややかに、氷のようなトーンでこう言い放った。

「あの……お客様。先ほどから何か目にゴミでも入られたのか、あるいは顔の痙攣(けいれん)でしょうか、おかしな表情をなさっていましたが……。それと、海老フライの件ですが」

「へ……?」

「本日15時から『倍量フェア』が全店でスタートしておりますので、ロースかつ&海老フライ定食をご注文いただいたお客様は、どなた様であっても、一律で海老フライが2尾になっておりますが。」

ズガーン! と、shimoの背後に雷鳴が轟いた(ような気がした)。

「ど、どなた様も……全員、2尾……?」

「はい。本日からの期間限定のフェアですので、私個人の特別なご厚意でも何でもございません。ですので、その……変なウインクとか、お控えいただけますと、他のお客様のご迷惑にもなりますので……」

女性店員は、一言一言を的確に、かつ容赦なく突き刺すと、「お冷やの追加はいかがですか?」と事務的な笑顔(もはや業務用の仮面)に戻り、スタスタと厨房の方へと去ってい失踪していった。

静まり返った(ように感じた)店内で、shimoはひとりで固まっていた。 脳内で盛大に打ち上がっていたラブストーリーの花火は、一瞬にして黒煙に変わり、パラパラと灰となって消え去った。

「……そ、そうだったのか」

shimoは呆然と、皿の上の「2尾の海老フライ」を見つめ直した。 ネットニュースにもあった。Xのポストにも書いてあった。

『ロースかつ&海老フライ(1尾)定食 970円 → ロースかつ&海老フライ(2尾)定食 価格そのまま970円』。 すべては、松屋フーズが全社を挙げて仕掛けた、食欲の秋の大大キャンペーンの仕様そのものだったのである。

それを「自分への好意の表れ」と勘違いし、見ず知らずのアルバイトの女の子にウィンクをかますなどという大立ち回りを演じてしまった自分の脳内お花畑っぷりに、冷や汗が滝のように流れ落ちた。

「穴があったら……今すぐ、このキャベツの千切りの下にでも埋まりたい……!」

第5章:フェアの全貌と、ネットの熱狂が教えてくれたもの

赤面で耳たぶまで真っ赤になったshimoは、しばらくの間、箸を動かすことができなかった。 恥ずかしさでその場から走り去りたい衝動に駆られたが、目の前には、サクサクの衣をまとったロースかつと、2尾の海老フライ、そしてまだ一口しかつけていない山盛りのご飯が鎮座している。残すことは、農家や松のやの調理スタッフに対して最大の不敬にあたる。何より、お金を払っているのだ。

「……食うしかない。この現実の重みを受け止めながら、しっかりと味わい尽くすんだ、俺は」

shimoは腹をくくり、ソースをたっぷりとかけて、ロースかつを口に放り込んだ。 サクッとした軽やかな衣の食感のあとから、ジューシーな豚肉の旨味がじゅわっと広がる。続いて、問題の海老フライにかじりつく。

プリッとした海老の身の弾力と、タルタルソースの酸味が絶妙にマッチして、さっきまでの絶望感すらどこかに吹き飛ばしてしまうほどの美味さだった。

「う、うまい……。松のやのとんかつとフライは、いつ食ってもクオリティが高いぜ……」

気まずさを忘れるために、shimoはスマホを取り出し、再びネットの海へと潜った。 そこには、自分と同じように「倍量フェア」に狂喜乱舞する人々のリアルな投稿がたくさん並んでいた。

『松のやの倍量フェア、マジで頭おかしい(褒め言葉)。唐揚げ6個はボリュームすごすぎて笑う』

『カキフライ4個定食を1,030円で食えるとか、秋の味覚の暴力的コスパだな』

『アジフライ2枚も最高。サクサクふわふわでご飯が何杯でもいける』

『超厚切りリブロースかつの盛合せも対象とか、松のや本気出しすぎだろ。明日も行くわ』

ネットの評判を眺めているうちに、shimoの心に不思議な温かさが戻ってきた。 そうだ。このフェアは、別に自分一人のために用意された特別待遇なんかじゃなかった。全国の、日々の仕事や生活に少しお疲れ気味のサラリーマンや学生、家族連れなど、すべての「美味しいものをガッツリ食べたい人たち」に向けて、松のやが差し出してくれた巨大な愛の形だったのだ。

「俺だけじゃない……みんな、このボリュームと安さに救われているんだ」

勘違いの恥ずかしさは痛いほど残っていたが、同時に、この世界は自分の小さな思い込みよりもずっと広く、そして温かいもので満ちていることに気づかされた。誰かに特別に愛されていなくても、目の前の美味しい定食が、これほどまでに自分を温かく満たしてくれている。それだけで、今日のところは十分すぎるではないか。

第6章:10月21日の夜、満腹の腹をさすりながら前を向く男

夕暮れ時、すっかり日が落ちて涼しくなった街を、shimoは満足げに歩いていた。 結局、あの後、彼は「何杯でもライスおかわり無料」のシステムを最大限に活用し、白米をなんと3杯も平らげてしまった。

ロースかつ、2尾の海老フライ、キャベツ、そして山盛りのご飯。胃袋はち切れんばかりにパンパンになり、歩くたびに「ふぅ、ふぅ」と心地よい満腹の息が漏れる。

店を出るとき、あの女性店員と目が合った。 彼女はわずかに苦笑いをしつつも、「ありがとうございましたー」と声をかけてくれた。

shimoは顔を真っ赤にしながら、小さく会釈をして店を後にした。もう二度とあんな恥ずかしい勘違いはしないと心に誓いながらも、どこか清々しい達成感があった。

10月21日の一日。 それは、盛大な勘違いから始まった、ちょっとほろ苦く、しかし最高に美味しくて温かい一日だった。

「モテ期」なんてものは訪れなかったけれど、代わりに、人生最大級の「食欲の秋の奇跡」と、お腹いっぱいの幸せが手に入った。失恋の傷口だって、香ばしい衣とジューシーな肉汁、そしてたっぷりのライスが綺麗にコーティングしてくれたはずだ。

「よし……明日からも、この満腹のパワーで、またポジティブに生きていくか!」

夜風が、shimoの少し膨らんだお腹を優しく撫でて通り過ぎていく。 秋の夜空には、満月がぽっかりと浮かび、まるで今日の彼の勘違いを笑うように、優しく、そして明るく光り輝いていた。
(完)

このショートストーリーは、以下のサイトを参考にさせて頂きました。
https://www.matsuyafoods.co.jp/whatsnew/campaign/186183.html
https://x.com/matsu_noya/