『明治チョコ100年CMに嫉妬したお菓子たち』(架空で空想のショートストーリー)※画像はAIによるイメージを含みます
深夜11時の棚、華やかなポップの影で
2026年(令和8年)9月13日、日曜日。午後11時。
秋の気配が少しずつ夜風に混じり始めた街角にある、とあるコンビニエンスストア。自動ドアが開くたびに鳴る無機質な電子音も、この時間になるとどこか寂しげに響き渡る。蛍光灯の白々しい光に照らされた店内は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
しかし、人間たちの耳には届かない次元で、ある棚の一角だけが異常な熱気に包まれていた。
「……おい、見たかよ。あのふざけたほどに輝かしい王座を」
低い、油と香辛料にまみれたような声が響いた。声の主は、スナック菓子コーナーの最上段に鎮座する『灼熱地獄!ハバネロ&ジョロキアトルティーヤチップス・辛さ200倍』——通称、ハバネロ先輩である。彼の真っ赤なパッケージは、怒りなのか元々のデザインなのかわからないほどに燃え滾っていた。

「見ないようにしても、視界に入ってくるさ。嫌でもな」
ため息混じりに答えたのは、その隣にいる『極濃!トリプル熟成チーズの背徳ポテトチップス』——通称、チーズポテト氏だ。彼は自分のカロリーの高さに誇りを持ちつつも、最近の健康志向ブームに肩身の狭い思いをしている中堅スナックである。

彼らの視線の先、通路を挟んだ向かい側のチョコレートコーナーは、異様なほどの後光を放っていた。棚の大部分を占拠し、金色と茶色を基調とした豪奢な特設ポップが天井に届かんばかりに飾られている。そこに書かれていたのは、燦然と輝くこんな言葉だ。
『祝・明治ミルクチョコレート 発売100周年!』
そう、1926年の誕生から一世紀。日本中、いや世界中の誰もが知るあの「ミルチ」が、ついに100歳という途方もない大台に乗った記念すべき日なのである。
「100年だぞ、100年。俺たちなんて、3ヶ月も棚に生き残れれば御の字の、使い捨ての命だっていうのに……」
パッケージの隅に「期間限定」と小さく印字された『謎の深海魚エキス配合・奇跡の酸味スナック』——通称、酸味ルーキーが、自嘲気味に呟いた。彼は発売されてまだ2週間だが、すでに発注がストップしたという噂を仕入れたばかりだった。

ハバネロ先輩が、バリッと音を立てて身を乗り出した。

「ああ、そうだ! 俺たちはどうだ? 舌が麻痺するほどの辛さを追求し、消費者の胃袋をぶっ壊す覚悟でパッケージの炎を燃やしている! チーズポテトだって、袋を開けた瞬間に部屋中がチーズ臭くなるほど濃厚さを極めて、必死に『背徳感』を売りにして戦ってるじゃないか!」
「おっしゃる通りです」チーズポテト氏が深く頷く。
「我々は、常に新しい刺激、奇抜なアイデア、一発逆転のバズりを求めて命を削っています。でなければ、この競争の激しい棚の片隅にさえ置いてもらえないのですから」
「それなのに!」 ハバネロ先輩の怒りが頂点に達した。
「あの茶色い板チョコはどうだ! 100年間、形も色も、基本の味も変えずに、ただ『変わらないやさしさ』なんていう反則級の武器だけで、堂々と王者の席に座り続けている! しかも昨日から始まったあのテレビCM、見たか!? なんなんだよ、あの規格外の扱いは!」
スナックたちの間に、重苦しい空気が流れた。 彼らの怒りの発端は、昨日、9月12日から全国で放映が開始された新TVCM『明治ミルクチョコレート100周年』編にあったのだ。

豪華すぎる100年の軌跡への嫉妬
「俺は見たぜ、店内の天井モニターで流れてるのを……」 酸味ルーキーが、震える声で語り始めた。
「FRUITS ZIPPERが出てたんです。あの、今をときめくアイドルが7人揃って。しかもテーマが『次の100年も、あなたの物語のそばにいられますように』ですよ。俺たちなんて、『明日の朝は胃もたれ確定!』とかしか言えないのに……」
「衣装もセットも凄まじかった」チーズポテト氏が分析するように目を細める。
「1926年の大正時代から、昭和、平成、令和と、各時代を象徴する情景がミニチュアの精巧なセットで再現されていた。大正のレトロな和洋菓子店の前で、水色の着物を着た真中さんが妹たちとチョコを分け合うところから始まるんだ」

「着物だと!?」ハバネロ先輩が噛み付く。
「スナックのCMなんて、大抵ジャージ着た若者が部屋でゲームしながらバク食いするか、パーティーで馬鹿騒ぎするかの二択だろうが!」
「まだまだ続きますよ」チーズポテト氏は溜息をついた。
「1960年代の昭和の銀座の街並みでは、鎮西さんがクラシカルなオレンジのワンピース、早瀬さんがレトロポップなイエローのワンピースにブルーのアイシャドウで、おしゃれにショッピングを楽しんでいる。80年代になると、ピンクのお部屋で昭和アイドル風の服を着た松本さんが、鏡の前で照れくさそうにチョコレートを渡す練習をしているんです」

「鏡の前でチョコを渡す練習……くっ、甘酸っぱいじゃねえか。俺を渡す練習なんて、罰ゲームの時くらいしか見たことないぞ」ハバネロ先輩が悔しそうに唸る。
「2000年代の平成では、仲川さんと月足さんが渋谷で、平成ギャル風のファッションに身を包んでガラケーで自撮りです。そして現代の令和。清楚なワンピース姿の櫻井さんが、部屋で映画を見ながらリラックスしてミルチを頬張る。最後は7人全員が歴代のパッケージを手にして勢揃いですよ」

「やりすぎだ……」酸味ルーキーが力なく呟く。
「一世紀の歴史をタイムトラベルするような、ノスタルジックでエモーショナルな空気感。しかもネットの反応、知ってます? 『エモすぎて泣いた』『大正ロマンな着物可愛い!』『平成ギャル姿似合いすぎ!』『自分の人生と重なる』……大絶賛の嵐ですよ」

「何より俺が許せないのは……」 ハバネロ先輩がギリッと歯を食いしばった。
「音楽だ。あの、いずみたく氏が作曲した超名曲『明治チョコレートのテーマ』! 『チョコレートは、明治〜♪』っていう、日本人のDNAに刷り込まれたあのフレーズを、時代を追うごとにクラシカルな音色から現代風のアレンジに変えながら、FRUITS ZIPPERが歌い上げてるんだ。ずるいぞ! なんであいつらだけ、誰もが口ずさめるテーマソングを持ってるんだ!」
「それだけじゃありません」 チーズポテト氏が、さらに決定的な事実を突きつけた。
「100周年プロモーションは、CMだけじゃないんです。『Melody of meiji』という企画を知っていますか? 99周年を迎えた去年の9月から、特設サイトで始まっていた恐ろしいリレー企画です」
「リ、リレー企画?」
「ええ。あのテーマソングを、ジャンルや世代を超えた12組の超豪華アーティストが毎月歌い継いできたんです。中森明菜さんからスタートして、五木ひろしさん、TOSHI-LOWさん、こっちのけんとさん、森高千里さん、新浜レオンさん、藤あや子さん、イルカさん、中納良恵さん、大黒摩季さん……そしてフィナーレの小林幸子さん。9月8日からは、この全員の歌声が重なる『スペシャルエディション』の動画まで公開されているんですよ」

その名を聞いた途端、ハバネロ先輩は言葉を失った。
「な、中森明菜に……小林幸子だと……? スナック菓子のキャンペーンなんて、せいぜい若手芸人が激辛食べて悶絶する動画を作るのが関の山だってのに。どんだけスケールが違うんだよ……」
「まさに国家規模のプロジェクトです」チーズポテト氏は眼鏡を押し上げるような仕草をした(パッケージのシワが寄っただけだが)。
「ネット上でも『自分の青春時代の推しが歌ってる!』『おばあちゃんから孫まで知ってるお菓子ってすごい』と、世代を超えた共感の渦が巻き起こっています。100年の歴史が持つ重み、人々の生活のそばに常に存在し続けたという実績……我々のような一過性の刺激を提供するだけのスナックには、逆立ちしても勝てない領域です」
深夜の棚に、敗北感という名の静寂が降り降りた。 辛さ200倍で武装しても、濃厚なチーズで着飾っても、結局のところ彼らは「日常の安心感」という絶対王者の前では、ただの道化でしかないのだろうか。
変わらないやさしさと、刺激を求める哀愁
「……どうせ俺たちは、イロモノさ」 酸味ルーキーが自嘲気味に笑った。
「話題作りのために奇抜な味にされて、SNSで『ヤバい味だったwww』って消費されて、二度と買われない。それが俺たちの運命なんだ」
「やめろ、ルーキー」ハバネロ先輩がたしなめる。
「俺たちは俺たちで、ストレス社会で刺激を求めてる奴らのために身を粉にしてるんだ。それなりの存在意義はあるはずだ……多分な」
その時、自動ドアが開く音がした。 『ウィーン』 入ってきたのは、疲れ切った顔をした20代後半の女性だった。手には丸められたデザイン画のようなものが握られており、目の下には深い隈ができている。彼女の足取りは重く、まるで何かの重圧に押しつぶされそうにフラフラと歩いていた。

「……あの子、ここ一週間、毎日この時間に来てるな」チーズポテト氏が小声で言った。 「徹夜続きの若手デザイナーってとこか」ハバネロ先輩が分析する。
女性はフラフラとスナックコーナーに近づいてきた。
「おっ、来るぞ! 徹夜の眠気覚ましには、俺のハバネロ200倍が最適だ! さあ、俺を手に取れ! 胃袋から叩き起こしてやるぜ!」 ハバネロ先輩がパッケージを精一杯膨らませてアピールする。
しかし、女性のうつろな目はスナックコーナーを素通りした。彼女は立ち止まり、向かいのチョコレートコーナーを見つめた。 金色と茶色の『100周年』のポップをぼんやりと見上げ、そして、一番下段に積まれた、昔ながらの板チョコ、明治ミルクチョコレートを一つ手に取った。

「……また、企画通らなかったな……」 女性は、ミルチのパッケージを両手で包み込むように持ち、小さな声で呟いた。
「同僚はみんな、どんどん大きな仕事任されてるのに。私だけ、ずっと同じところをぐるぐる回ってるみたい。私には、才能なんてないのかな……」
彼女は、SNSの画面を開いた。そこには、華やかなレセプションパーティーに参加する同世代のクリエイターたちの姿や、海外で賞を獲ったという同級生の報告が並んでいた。彼女の指が、それらの投稿をスクロールするたびに、彼女の肩はどんどん小さくなっていくように見えた。
「おいおい……」ハバネロ先輩が息を呑んだ。「あの子、完全に心が折れかかってるじゃないか」
女性は、手元のミルチを見つめた。 「……100年か。ずっと変わらないのに、ずっと必要とされてるんだね。すごいな」 彼女は、レジへと歩いていき、ミルチを一つだけ買って店を出て行った。
「……見たか」チーズポテト氏が静かに言った。
「心がすり減っている時、人は刺激を求めない。高価な高級ショコラティエのチョコでもない。ただ、昔から知っている、変わらない味に寄り添ってほしいんだ。あの板チョコは、彼女の『今のままの自分でもいいんだ』という安心感の拠り所になっている」
誰かと比べて、自分がちっぽけに見える夜。 何者かにならなければいけないと焦り、背伸びをして疲れ果ててしまう日。 そんな時、100年前からずっと同じ茶色いパッケージで、「私もずっとここにいるよ」と静かに微笑みかけてくれる存在。それが、明治ミルクチョコレートなのだ。
「……負けたぜ」ハバネロ先輩がぽつりとこぼした。「俺の辛さじゃ、あの子の心の傷は癒やせねえ。余計にヒリヒリさせるだけだ」
誰の人生にも、必ず光が当たる場所がある
深夜2時。 次に店を訪れたのは、30代半ばの小綺麗な服装をした女性だった。しかし、彼女の表情はひどく暗かった。カゴを手に取り、日用品をいくつか放り込んだ後、彼女はスイーツコーナーの前で立ち止まった。

「……また、見ちゃった」 彼女はスマートフォンの画面を暗くして、ため息をついた。 彼女はシングルマザーだった。昼間はパートで働き、夜は家事に追われる日々。さっきまで見ていたのは、かつての友人たちのSNS。タワーマンションでのホームパーティー、海外旅行の写真、ブランド物のバッグ。「高級なもの」「高価なもの」に囲まれた彼女たちの生活が、スマートフォンの小さな画面から強烈な光を放ち、彼女の慎ましい日常に暗い影を落としていた。
「どうして、私だけこんなに余裕がないんだろう」 彼女は、ショーケースの中にある少し高めのプレミアムデザートに手を伸ばそうとした。せめてもの自分へのご褒美。これを食べれば、少しは彼女たちと同じ高さの幸せを感じられる気がしたからだ。
しかし、その手は途中で止まった。 彼女の視線が、ふと隣の棚に向けられた。そこには、金色のポップと共に、昔から変わらない茶色いパッケージのミルチが並んでいた。
「……お母さん」 彼女の脳裏に、幼い頃の記憶が蘇った。 裕福な家庭ではなかったが、休日の午後、母がよく買ってきたのがこのチョコレートだった。「ひとくち、ちょうだい」とせがむと、母は銀紙を丁寧に破り、ブロックを一つだけパキッと折って口に入れてくれた。あの時の、口いっぱいに広がるカカオとミルクの甘い香り。母の優しい笑顔。あの瞬間、彼女は世界中の誰よりも幸せだった。

幸せの尺度は、他人が決めるものじゃない。 値段が高いから、希少だから、他人が羨むから、幸せなのではない。自分が心から安らぎ、笑顔になれる瞬間こそが、本物の幸せなのだ。
彼女は、伸ばしかけた手を引っ込め、ミルチを一枚手に取った。 「……帰ったら、あの子と一緒に食べよう。半分こにして」 彼女の顔から暗い影が消え、柔らかな、だが芯のある笑顔が浮かんでいた。
その様子を棚から見ていた酸味ルーキーが、小さく鼻をすすった。 「……なんだよ、あのチョコ。ただ置いてあるだけで、人の心の中のコンプレックスを溶かしていくじゃないか。他人の価値観に振り回されなくていいって、無言で教えてるみたいだ」
チーズポテト氏が頷く。 「あれこそが、100年の重みです。世間は常に『もっと高く』『もっと特別に』と煽ってきます。我々スナックも『もっと濃厚に』『もっと刺激的に』と自分を見失いそうになる。ですが、ミルチは知っているんです。人間が本当に求めているのは、背伸びをしない、ありのままの自分を受け入れてくれる存在だということを」
人生という舞台に、端役はいない
午前4時。 空が少しだけ白み始めた頃、店に入ってきたのは、作業着姿の初老の男性だった。顔には深いシワが刻まれ、手は節くれだっている。夜間道路工事の警備員をしている彼だった。

彼はまっすぐに缶コーヒーのコーナーへ向かい、温かいブラックコーヒーを一本手にした。そして、迷うことなくチョコレートコーナーへ歩み寄り、ミルチを一枚カゴに入れた。
レジで会計を済ませながら、彼は店員にポツリと話しかけた。
「来月で、この仕事も引退でね」
「そうなんですか。お疲れ様でした」深夜アルバイトの学生が、少し驚いたように応える。
「……長いこと働いてきたが、結局、俺の人生なんて大した功績も残せなかった。テレビに出るような偉い人でもないし、歴史に名を残すわけでもない。ただ毎日、道路に立って赤い棒を振ってただけだ。世の中から見れば、ただの通りすがりの背景みたいなもんさ」 彼は、自嘲気味に笑いながら、ミルチのパッケージを指で撫でた。

「でもな、夜明け前の冷え込む時間に、このコーヒーと、このチョコレートをひとかけら口に入れる瞬間だけは……『今日も一日、よく頑張ったな、俺』って、自分を褒めてやれる気がするんだよ。このチョコは、昔からずっと変わらない。俺みたいな冴えない親父のことも、見下さずにいつも同じ甘さで労ってくれるんだ」
男性は、店員に頭を下げ、ゆっくりとした足取りで店を出て行った。
その背中を見送ったハバネロ先輩のパッケージが、微かに震えていた。 「……おい。誰が通りすがりの背景だ。ふざけるな」 ハバネロ先輩の声は、怒っているようで、どこか泣いているようだった。
「あの親父さんが寒い夜に立ってくれてるから、トラックが安全に走れて、俺たちがおいしく棚に並べられてるんじゃねえか。偉い人だけが歴史を作ってるわけじゃない。あの親父さんの一歩一歩が、確実にこの社会を支えてるんだ」
チーズポテト氏が、静かに言葉を継ぐ。
「ええ。この世界という巨大な物語の中で、誰かの引き立て役として生まれてくる人間なんて、ただの一人も存在しません。誰もが、自分自身の人生という舞台のど真ん中に立っている。悩み、苦しみ、誰かを羨む日があっても、必死に汗を流して生きているその姿そのものが、何よりも尊く、光り輝いているのです」
他者を敬い、見えないところで社会を回している無数の人々に感謝し、そして何より、自分自身の命を燃やして精一杯生き抜くこと。 誰かと比べて自分を卑下する必要などない。他人の成功を妬んだり、自分より下を見て安心したりする必要もない。ただ、自分の持ち場で、自分にしか出せない味を追求して生きればいい。
それは人間だけでなく、棚に並ぶお菓子たちにとっても同じことだった。
「俺たちは、ミルチにはなれない」 ハバネロ先輩が、吹っ切れたような明るい声で言った。
「100年愛されるやさしさは、あいつらの専売特許だ。あいつらは、人々の疲れた心にそっと寄り添い、傷を癒やすための存在だ。CMでアイドルが歌い踊るのも、豪華なアーティストが歌を繋ぐのも、あいつらがそれだけの歴史と信頼を積み重ねてきた証だ。素直に尊敬するぜ」
「では、我々はどうしますか?」チーズポテト氏が尋ねる。
「決まってんだろ」ハバネロ先輩は、パッケージの炎をさらに赤く燃え上がらせた。

「俺たちは、刺激だ。理不尽な上司に怒られてムシャクシャしてる奴、失恋してやけ食いしたい奴、眠気を吹き飛ばしてもう一踏ん張りしたい奴。そういう連中が『チクショウ、やってやるぜ!』って立ち上がるための、起爆剤になってやる。それが俺の使命だ!」
「なるほど」チーズポテト氏が笑った。
「ならば私は、ダイエットなんか忘れて今日はとことん自分を甘やかしたい、そんな欲望にまみれた夜の最高のパートナーであり続けましょう。カロリーの高さは、心の満足度の高さです」
「俺は……」酸味ルーキーが照れくさそうに言う。
「たった2週間の命かもしれないけど、食べた人を『なんだこれ!』って一瞬でも笑顔にしてやりますよ。短くても、強烈な記憶を残してやります」
彼らはもう、向かいの豪奢な100周年ポップを見ても、嫉妬の炎を燃やすことはなかった。 そこにあったのは、同じお菓子として、人々の人生に寄り添う者同士の、静かで深い敬意だった。
「……でもよ」 ハバネロ先輩が、ぽつりと本音をこぼした。
「俺たちみたいな尖ったスナックを散々食い散らかして、胃がもたれたり、口の中がヒリヒリした後に……最後に食べるあのミルチって、信じられないくらい美味いんだよな。あの甘さが、全部包み込んでくれるっていうか」
「ええ、悔しいですが、それは真理です」 チーズポテト氏が同意し、酸味ルーキーも深く頷いた。
外は完全に夜が明け、新しい朝の光がコンビニのガラス窓から差し込んできた。 9月14日の朝。 街はまた動き出し、人々はそれぞれの舞台へと向かって歩き始める。 彼らが今日どんな困難にぶつかっても、どんな喜びに出会っても、コンビニの棚には、彼らを励ますスナックたちと、いつまでも変わらないやさしさで寄り添い続ける「明治ミルクチョコレート」が待っている。
次の100年も、きっと、彼らの物語のそばに。

自動ドアが開き、出勤前のサラリーマンが足早に入ってきた。 お菓子たちは、それぞれのパッケージを精一杯輝かせ、誇り高く自分たちの出番を待っていた。彼らの小さな世界から、人間たちの大きな世界へ向けた、果てしない希望の物語が、今日もここから始まっていく。

(完)
このショートストーリーは、以下のサイトを参考にさせて頂きました。
https://www.meiji.co.jp/products/brand/mchoco/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000080.000017745.html
https://asobisystem.com/news/75499/
